おジャ魔女わかば
特別編[天の章]
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 マリアは仕方なしに指を弾いた。川底の物が次々と浮かび上がってくる。そして簀巻き状の布団が上がってきた。二人はそれを引き上げて広げてみると、その中に少女が包まれていた。
「カグラだと…」
 マリアは信じられないように呟いた。

***

 妖精シロは特殊な結界を作成し、かなり魔力を消耗した様子だ。
「この中にいれば、しばらく見つからないはずだ。その間に体勢を立て直すぞ」
 と言いながら、白いロープをあずさと蘇雲に手渡した。
「何?」
「縛ると魔力を封じる事ができる特殊なロープだ。それでそいつ等を縛り上げろ」
 あずさの問いに答えたシロが指さしたのは、女王候補の月魔女サティとハルフだった。
「あっちは良いのカ?」
 蘇雲は同じく月魔女の双子フリルとネオルを指さす。するとさくらが自信げに言う。
「彼女達は、すでにみるとファンクラブの会員ですわ。当会員に悪い人はいませんわ」
 蘇雲は半ば呆れて、サティの方へ向かった。
「私達、カグラの力になるよ…いいかな」
 ネオルがかぐらに尋ねる。かぐらは笑顔で頷いた。
「私達、友達でしょ」
 かぐらの言葉に双子はすまなさそうに言う。
「私達、散々、あなたをいじめて来たのに…許してくれるの?…友達って言ってくれるの?」
 そんな二人にかぐらはポケットから自分のみるとファンクラブの会員証を出して見せた。どうやらソーシャーク号での航海中に入会したようだ。
「会員規約第6条。会員は皆友達。なんだよ」
 かぐらは嬉しそうに言う。さくらもみるとも嬉しそうに頷いている。そしてかぐらはわかばがアルテに殺されたという情報を思い出して俯いた。
「今まで私が中途半端だったから、わかばちゃんを巻き込んで取り返しの付かない事にしてしまった。もう、こんな事が繰り返されないよう、月を変える力が私にあるのなら、私は王位に付く。それは償いにならないかもしれないけど……でも、私にはそれしか出来ないから…」
 かぐらは顔を上げて、宣言する。
「カグラ、一人じゃないわ。もちろん力を貸すから」
「これからは、仲間よ」
 フリルとネオルが言う。みるととさくらも、
「微力ながら、力を貸すわ。わかばちゃんのためにも…」
「がんばりましょう。かぐらさん」
 5人は手を重ねた。

 あずさはハルフを縛りながら呟く。
「あなたはこれからどうするの?」
「そんな選択権は私には無いでしょ…どの道、この失態でアルテ様の信用は無くしたはずだし…もう、今までようには生きていけないな」
「なら、かぐらに付いたら?」
「あんな奇麗事に付き合えるか!あんたも本心でそんな事言っている訳では無いだろう」
 わかばを殺され抑えているあずさを挑発するようにハルフは言う。
「確かに奇麗事だし、それでわかばが戻る訳じゃない。でも私は…」
 あずさはハルフに以前の自分、わかばと出会う前の自分と同じものを感じていたからハルフの気持ちも理解できた。ハルフもまたあずさは自分と近い存在であると感じていた。

 蘇雲は乱暴にサティを縛り上げた。
「もうちょっと捕虜には優しくして欲しいわね」
「黙れ!」
 蘇雲はサティを助けたかぐらに納得していなかった。またそれはサティも同じだった。
「なぜ助けた?」
 サティはかぐらに問う。
「なぜって…わからないけど、こうしなきゃって、体が…」
 かぐらは曖昧な返答をする。
「所詮、あんたも月魔女で、アタシ達を利用してここまで来たのとちゃうのカ!」
 蘇雲は、わかばの死という情報で、今回の最大の原因であるかぐらに強い嫌悪感を抱いてしまっていた。実は同種の感情をあずさも抱いていたが、あずさは押さえ込んでいるのに対し、蘇雲は直接それをかぐらにぶつけてきた。
「それはちが……う」
 かぐらは否定しようとして言葉につまる。結果としてこの状況を招いたのは自分だ。何と言い訳しても許される物では無いからだ。

***

 女王候補トワイの派閥のアジトの一室では、トワイとマリアが今後の作戦を練っていた。
「アルテミス5が4人消息を絶ったと言っても、まだミィズがアルテにはついている…ある意味、一番厄介な奴が…」
 マリアはトワイに言い聞かせた。トワイは静かに目を閉じたまま聞いている。マリアは続ける。
「が、時間も無い。幸い兵達の士気も上がっている。上手く立ち回れば、アルテを討てる」
「そうだな…思わぬ所から切り札のカードが手に入ったから……これがどう作用してくれるか…」
 トワイはそう言うと目を見開いた。

 わかばは目を覚ました。まだ自分がかぐらの姿をしている事を確認した後、辺りを見渡す。今度は殺風景な部屋だった。口から出たのは、前回と同じ言葉。
「天国ってこんな感じなのか…」
「天国なんて良い所じゃないよ、ここは」
 突然、明るく声をかけられ、わかばはその存在に気が付いた。それはホルプだった。わかばを看病してくれていたようだ。
「あなたは?」
 その人懐っこい幼い笑顔にわかばはつい尋ねてしまう。
「ひっどーい!そりゃ、面識はあまり無いけど、同じ女王候補じゃんか〜。そりゃ第10候補じゃ、トップのカグラさんには、取るに足らない存在かも知れませんけどぉ〜」
 ホルプはすねた。わかばは焦って素直に謝った。
「ごめんなさい…ほんとにごめんなさいっ」
 今度は逆にホルプが驚く。
「えっ、いや別にそんなつもりじゃ…半分冗談だし〜。私はホルプだよ、思い出した?」
 ホルプは微笑んだ。わかばもそれにつられて微笑む。月に来てからこんなに気が楽になったのは初めてのような気がした。そしてクロに教えられた月魔女女王候補の配置を必死に思い出そうとした。ホルプは2番目の勢力トワイ派の陣営だった。
「あの…」
 ずっとわかばの顔を覗き込むホルプにわかばは尋ねた。慌ててホルプが答える。
「あっ、ごめんなさい。何かイメージしていた第一女王候補と違うから…」
「違うって?」
「うん…私みたいな下っ端の候補じゃ、上位3位クラスになると、実際そんなに会えないのよ…だから想像するしかないでしょ、そしたらもっと高飛車な人かなって…」