おジャ魔女わかば
特別編[潔の章]
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「配下の内心を読め切れなかった…私のミスか」
 アルテは諦めたように目を閉じる。
「燃え尽きろ!アルテ!!」
 ミィズのポロンから巨大な炎が迸り、アルテを焼き尽くさんばかりに襲い掛かる。アルテの視界が赤と熱に支配される。
「アルテ!」
 しかし、アルテが炎に包まれる事は無かった。アルテを庇うようにかぐらが覆いかぶさる。炎はロイパのドレスに弾かれる。
「カグラ、無茶よ!」
「大丈夫、仲間に貰ったこのロイパのドレスは、決して、邪悪な魔法に屈しない。ミィズちゃんを止めて…みせ…」
 炎を弾いているものの、炎の一部は着実にかぐらにダメージを与えていた。しかしミィズはかぐらも共に消そうと、力を緩めようとしない。
「もう止めろ!どうして私を庇う!」
「私の願う未来には、アルテも、ミィズもトワイさんも、全員必要なの!」
 アルテの問いにかぐらは答える。
「月にあなたに味方なんて居なかったのよ、なんでそんな事が言えるの!」
「昨日は敵でも、明日は友達になれる…なれるはずだよ!」
 アルテとかぐらのやり取りにミィズは鬱陶しそうに叫ぶ。
「上位候補のお前達はそれでいいかもしれないけど…私のような者は、そうはいかないのよ」
 ミィズはさらに魔力を込める。壁に叩きつけられ、倒れていたわかばは、3人のやり取りを聞いて、精一杯叫んだ。
「だからって、誰かを傷つけていい理由にはならないよ。例えそれが世界の為でも…そんな世界は…変えなきゃいけないんだよ」
「世界がそんなに簡単に変わるものか!」
 ミィズは吐き捨てる。
「変わらないのは…人が変わろうとしないからだよ、勇気を持てば変われる…世界を革命できる」
 自分を変えたくて魔女を目指していたわかばは自分に言い聞かせている様だった。かぐらも頷く。
「世界を革命か…ふっ、好き勝手言ってくれるな…しかし、あいつの言う事なら納得できるのが不思議だな」
 トワイが起き上がりながら言う。
「まったく、とんだ伏兵が舞い込んでいたものだな」
 マリアも立ち上がる。
「一体、どっちのかぐらが本物なの?」
 ホルプが首を傾げる。
「でも、どっちも考えは一緒みたいだな」
 サティが呟く。その横であずさも。
「…わかば」
「ミィズ、もうやめろ…お前の負けだ!」
 クリスが叫ぶ。
「何が負けだ、まだ私が優位なのに変わりは無い!」
 ミィズは負けずに叫ぶ。しかし同時にミィズの足元の床が吹き飛んだ。そこに黒いオーラをまとった鋭い翼を広げた少女が、氷の様に冷たい瞳で、辺りを見渡していた。
「……月の女王候補だな、我が名はディカグヤ、月を滅ぼす者!」
 さらに一層冷たい言葉が発しられ、一同を激震させる。
「封印されていた魔物か…」
 クリスは苦々しく告げた。
「我に封印の屈辱を与えた、女神アルテミスの力を継ぎし者達よ、我が復讐の刃を受けよ!」
 と言って、手始めとばかりに足元に倒れていたミィズをその鋭い翼で切り裂いた。ミィズの見習い服は切り裂かれ、ジュエリーポロンも跡形も無く破壊される。
「やめて!!…どうして、そんな事するの!」
 かぐらが叫ぶ。
「やらないとやられるのだ。ならば、やるしかなかろう?…そうだろう」
 と言いながら、ディカグヤは、翼を大きく広げる。その翼が黒い輝きを放つ。むせ返りそうな邪悪な気が、一気に膨れ上がる。

***

 外から王宮を見上げていたみると達は、王宮の最上階がいきなり黒い爆発を起こして砕け散るのを目の当たりにする。みるとは呆然と呟く。
「一体、何が起こっているの?」
「事態を把握するより、助けないといけませんわ!」
 さくらはそう言うと、箒で飛び立った。爆散した最上階からは、そこにいた者達が吹飛ばされていた。みると達は箒に飛び乗り、さくらに続いて、その者達を受け止めに向かう。

 さくらは意識を失って落下中のぼろぼろのミィズを受け止めた。
「こんなに傷ついて…ひどい…早く手当てしないと…」
 クリスは、助けに来たみるとの箒に飛び乗った。
「すまない…助かった」
「あのっ、かぐらちゃんはっ」
 みるとの問いに、クリスも辺りを見渡す。蘇雲はアクロバティックな飛行で落下する瓦礫を避けつつ、トワイの腕を掴み、安全な空域まで飛んだ。
「まったくドーナッているのカッ」
 マリアは見習い服に着替えたフリルに、ホルプは同じくネオルの箒に助けられる。サティも見習い服のハルフに拾われていた。
「あとは……」
 辺りを見渡す蘇雲の目に落下を続けるあずさが映った。
「アズサッ!」
 蘇雲は叫んだ。しかしこちらは手一杯だ。それぞれ二人乗り状態の箒で、さらに急いでもあずさの所に間に合わない。
「あずさちゃーん!」
 みるとが叫んだ。あずさは意識を回復し、箒を取り出した。そしてそれに捕まって、落下を自力で食い止めた。そして尋ねる。
「わかばは?」
 わかばとかぐら、そしてアルテの行方が分からなかった。
「あいつら…爆心に近かったから…」
 サティが呟く。
「そんな事ありませんわ…絶対、大丈夫です。信じませんと…こんな時こそ信じないと…」
 さくらは切実に叫んだ。
「まだ…消えないのか…しぶといな…」
 黒い翼の少女ディカグヤが舞い降りてきた。
「誰ダ!」
「離せ、私を乗せていると、奴のターゲットになるぞ!」
 トワイは蘇雲に言う。しかし蘇雲は首を振って否定する。
「魔法が使えないのだロ、そんなヤツを放り出すなんて出来ないネ!」
 ディカグヤは、容赦なく箒に乗る魔女達に攻撃を仕掛けてくる。みると達はそれをかわしながら、魔法で対抗するが、魔女見習いの魔法ではディカグヤにはまったく通用しなかった。そして次第に追い詰められていく。
「我を封じる事ができるのは、女神アルテミスの力…お前達が13等分して持っている力を終結させたものだけだ!…即ち、月は滅ぶしかないのだ」
 月の崩壊は魔力を持つ者全ての世界の崩壊に等しかった。

***

 かぐらは目を覚ますと、不思議な空間を彷徨っていた。どこか懐かしい気がする。
「ここは…」
「今度こそ、天国ってとこかな?」
 近くにもう一人の自分を確認して、近づいていく。
「わかばさん…ごめんなさい」
 かぐらはまず謝罪した。