おジャ魔女りんく〜8番目の魔法!〜
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chapter2
心の揺らぎ

 午前の授業が終わり、給食の時間となる。給食の時間中は放送部制作のお昼の放送が各教室のモニターに流されていた。その内容は学校行事の案内や児童会からのニュースや、人気の先生や児童の紹介、音楽部の演奏会や演劇部の舞台映像を流したりと多種多様だった。この日は学園の人気者として月宮りんくがゲスト出演する事になっていた。
『月宮りんくさん、いらっしゃい。今日はよろしくお願いします』
 司会の放送部部長の軽いリズミカルな声が各教室のモニターについているスピーカーから流れる。続いて、少し緊張気味のりんくの声が流れてくる。
『月宮りんくです。いつもは児童会の報告でしか出させてもらっていないので、児童会長としてでは無く月宮りんくとしては初めてなので少し緊張しています』
『いやいや、何を…。凄く落ち着いていますよ。さすが児童会長。月宮さんは児童会長でありながら、成績優秀でスポーツ万能と学校のアイドルですが…さっそく、先日行われた全国小学生女子サッカー大会地区予選決勝のダイジェスト映像を見て行きたいと思います』
 と言って、司会はVTRの再生を指示した。画面に映ったのは、虹宮中央運動場のサッカーコートをスタンドから撮影した映像だった。

 広いピッチ内を縦横に動き回り、一際目立ったプレーする青いユニフォームの選手がすぐに目に付く。それがりんくだった。彼女にボールが渡るだけでスタンドが沸いた。
「速攻っ、上がって上がってっ」
 ボールをキープしたりんくはそう叫んで、大きくセンタリングをあげ、自分も走り出す。走りながら、チームメイトに的確に指示を送っていく。先の先まで読んでいるりんくの指示により、敵対する赤いユニフォーム、姫生小(ひめきしょう)のディフェンダーは完全に裏をかかれた様に虹宮小攻撃陣にゴール前への侵攻を許してしまう。そしてゴール前でりんくに再びボールが来る。しかしりんくは常にマークされていて、シュートコースはキーパーとディフェンダーに完全に塞がれている。
「甘いわ」
 りんくはボールを真上に蹴り上げる。そして回り込んでディフェンダーをかわしてゴール前に踊りでる。しかし上空のボールは風に流されて、やや左へ流れていた。りんくの動きに気を取られていたディフェンダー達は、左へ流れたボールの落下地点に走り込んでいた虹宮小の選手を完全にフリーにしてしまった。そのフリーの選手のシュートがゴールに突き刺さる。

「いやぁ…まさに計算され尽くしたプレーですね」
 モニターを見ながら司会の男子が驚いて言う。
「いえ、こうやって客観的に見返すと、まだまだ甘さを感じます。もっとこうすればって言うのがたくさんありますね」
 りんくは淡々と言う。司会は感心しながら言う。
「さすがですね。そこまで考えてこれを見て頂けるとは。その向上心が今の月宮さんを作っているんですね〜、いや、恐れ入ります」
 司会の“作っている”という発言にりんくは内心ドキッとしていた。しかしそんな事は外には微塵も出さないりんくだった。司会はまとめに入る。
「結局、試合はこの後、月宮さんがハットトリックまで決めて大差をつけ勝利。全国への切符を手に入れた訳ですが…いや、我が校は圧倒的じゃないかって感じですよね」
 興奮しながら話す司会にりんくは涼やかに微笑んで見せた。そして言う。
「全国でもがんばりますので、応援よろしくお願いします」

 教室で給食の八宝菜を食べながらさいとは小さくぶつぶつと呟く。
「みんなりんくをチヤホヤしすぎだぜ」
 そんなさいとの文句に構わず、放送は続いていく。

***

 りんくは放送室の分厚い扉を開いて外に出る。自分の出演が終わったのだった。外ではめいるが待っていた。両手で二人分の給食の乗ったトレーを持っている
「お疲れ様。隣の視聴覚室を開けて貰ったから、そこでお昼にしよ」
 めいるはそう言って、開けっ放しになっていた隣の視聴覚室に入っていく。りんくも部屋に入った所で、めいるはりんくに言う。
「扉閉めてね〜」
 りんくは頷いて扉を閉めた。閉めてから、なぜ閉める必要があるのかと不思議に思った。
「これで二人っきりだよ」
 めいるは意味深に言う。視聴覚室は映像関連の教材を使用する為の部屋で、防音設備は優れていて、中の音は外に漏れる事は無い様な造りになっている。りんくはそれが何を意味するかを想像して、少し顔を赤くする。
「りんくさん、何考えてたの?」
 めいるはきょとんと尋ねてくる。どうやらりんくとめいるは違う事を考えているようだ。めいるは徐にポケットからペンダントを取り出した。それは今朝、メガミ公園で怪しい男が配っていた物だった。
「それは…」
 驚いてりんくが指差して言う。
「りんくさんも貰ったでしょ、これ」
 めいるは当たり前の様に言う。
「さいとに渡したっきりだわ」
「そっかぁ…りんくさんはこういうの興味無いか」
 めいるは決め付けるように言う。そして…。
「でもね、使い方次第じゃ、便利だと思うよ」
 そう言って、めいるはペンダントのクリスタル部分をタッチした。踊りたくなる様な音楽と光が飛び出して、次第に虹を形作っていく。それがめいるの体で服となる。一瞬でめいるの服装が変わる、それは白い基調したとんがり帽子に虹色の前掛けのついた服。そして手には水晶のついた手袋、靴は先の尖った白い靴に変わっていた。
「プリティ・ウィッチー・めいるっち〜」
 めいるはそう言って、ポーズを取る。りんくは目の前で起こっている事に唖然としている。
「何?…それは」
 驚いたりんくはそう尋ねるのが精一杯だった。
「魔女の見習いの服装なんだって、ほら、この説明書に書いてある」
 めいるは言いながら紙切れを見せてよこす。そこには殴り書きで、ペンダントの説明と使い方が記されていた。
「そういえば、さいともこんなの見ていたわ」