おジャ魔女りんく〜8番目の魔法!〜
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chapter3
運命の邂逅

 その日、虹宮の街は魔法に溢れていた。今朝方、謎の怪しい男によって、ばら撒かれた魔法のペンダント。そのペンダントは七回だけ魔法を使う事ができると同封の取扱説明書には書かれていた。ペンダントを渡された少女達は、思い思いの願いを魔法のメロディに乗せて奏でていく。魔法は時に思いもよならない不思議な現象を現実にする事ができた。当然、そのおかげで街は少し混乱気味だった。

「ぺルーナスワロ ピピナロクーヘロン 金平糖よ部屋を埋め尽くせっ」
 閑静な住宅街の真ん中で魔法のメロディが響く。その家の2階から色とりどりの金平糖が“カラカラカラ〜”っと窓をぶち破って溢れ出す。

「ぺリーナぺロン ピロぺルペペーロン 塾の先生がみんなイケメンになれぁ〜」
 とある塾の休み時間に魔法がメロディが響いた。塾の講師控え室は大騒ぎになった。

「パァールンポルン グゥルルンポット 体重が軽くなれっ」
 駅前のスーパーマーケットを中心に半径50メートル圏内が無重力になる。店内の商品や人間がが宙を舞う。もちろん人々はパニックを起こす。

「ポペットプリッツ ポロプルペペーロン 死んだコロンちゃんが生き返れっ」
 死んだペットの犬が生き返る事を願った少女の両手のアーチポロンの水晶玉が弾け飛び、その反動で倒れてしまう。さらに周辺の地域が一気に停電となってしまう。

 ふたば商店街の東端“占いの魔法堂わかば館”の店先でしりもちをついた状態で店主のワカバを見つめ続けるりんく。ワカバはそんなりんくにニッコリと微笑みかける。そして手を差し伸べながら言う。
「よほど、切実な悩みがあるのですね。良かったらお話いただけませんか?私は占い師。人の運命を幸運へ導く事を商売としています。何かお力になれるかもしれません」
 ワカバの言葉はりんくの心に触れた感じだった。そして何故かワカバは信頼できるとりんくには思えて、無意識のうちに手を差し出している自分に気が付き、自分で驚いた。その手を取ったワカバはりんくを起き上がらせる。
「さぁ、どうぞ、店内へ」
 優しく店内へ案内する。店に足を踏み入れながら、りんくは尋ねる。
「どうして、私が悩んでいるって…わかったんですか?…顔に書いてあります?」
「まぁ、それもあるけど、あなたはこの店に引き寄せられた。私との巡り会いは偶然じゃ無いのよ、きっと。だから、何とかしてあげたいって思った。…あれ、それって魔女見習い服なの?…でも、あんまり見た事無い服だね」
 ワカバはりんくの服装に気が付いて、首を傾げる。りんくは黒い魔女見習い服を着ている。りんくも首を傾げる。それを見たワカバはさらに尋ねてみる。
「誰の弟子?」
 意味がわからないりんくはやはり首を傾げる。
「ま、良いわ、お茶でも飲みながら、ゆっくり話しましょ」
 と言って、りんくの肩を抱いて、店内に入り、扉を閉めた。
「シシ〜お茶とお茶菓子お願いね〜」
 ワカバは店の奥にそう呼びかけてから、りんくを隅っこのテーブルに案内した。
「さ、座って座って」
 ワカバは嬉しそうに言う。りんくは言われるままにテーブルについた。りんくは物珍しそうに店内を見渡した。すると店の奥から緑色の光が飛んできた。それは近くで見ると小人が空を飛んでいるみたいだった。りんくは驚いて声が出ない。緑色の小人、妖精シシはりんくが魔女見習い服を着ていたので、お構いなしに言う。
「ワカバ、お茶菓子無いわ」
「今朝、商店街の和菓子屋さんが持って来てくれたのがあったじゃん」
 ワカバは店の奥にある商店街の人から頂いた贈り物の山を指差して言う。
「あの芋羊羹はお昼に食べたでしょ」
 シシは呆れて言う。
「あ、あの芋羊羹って今朝のだったんだ」
 ワカバは納得して言う。そしてりんくに向き直って告げる。
「ごめんね、お茶菓子無いって。お茶だけになっちゃった」
 苦笑いしながら告げるワカバにりんくはどう対応して良いかわからずにキョトンとしている。目の前の大人の女性は、大人とは思えず、りんくから見て隙だらけに見えた。しかしワカバはいとも簡単にりんくの完璧にガードしている心に入り込んでくるような気がした。
「あの、良かったらこれ…」
 思い出したようにりんくは鞄からおはぎの入った箱を取り出して、ワカバに差し出す。
「これって、梓堂のおはぎじゃないのよ〜。イイっ、最高だよ。さ、さ、お茶にしよ」
 ワカバは子供の様に嬉しそうに椅子に座る。しばらくしてシシがお盆に湯気の上がる湯のみを二つ乗せて飛んで来た。お盆にはもう一つ、自分用の小さな湯のみが乗っている。3人は美味しいお茶を飲みながらおはぎを食べた。
「ん〜〜美味。あずさちゃんの味はちゃんと弟子達に受け継がれているんだね〜」
 ワカバはしみじみと噛み締めながら呟く。
「あずさちゃんって…カリスマ和菓子職人の日浦あずささんとお知り合いなんですか?私、大ファンなんですよ」
 りんくは思わず言ってしまう。
「あまり信じてもらえないかもしれないけど、私、あずさちゃんと親友なんだよ」
 ワカバの言う通り、りんくは信じられない様な顔をしている。目の前の女性とりんくの知る“日浦あずさ”とでは年齢が親子以上に離れているからだ。しかも日浦あずさといえば、物凄く厳しく頑固で知られている。目の前の軽い女性と親友だなんて思えなかった。
「あずさちゃんは人間だからね」
 ワカバは遠い目をして言う。そして思い出したように叫んだ。
「ああーーーーーっ!」
 りんくとシシは驚いてワカバの顔を見つめる。