おジャ魔女りんく〜8番目の魔法!〜
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chapter4
沈黙の女神

「ペチッポナーラ ペコッチクララーロ 先輩が私の事を好きに…」
 赤い魔女見習い服の少女が自分の部屋を閉め切って切実そうに願おうとしていた。
「ダメっ」
 その少女の口を背後から押さえて魔法を止める白い魔女見習い服の少女が突然あらわれる。赤の少女は驚き振り向いて言う。
「誰なの…何処から?」
 白の魔女見習い服…めいるはニッコリと微笑んで言う。
「魔法だよ」
 赤の少女は納得して頷いてしまう。
「人の心を変える魔法は、自分に災いをもたらすから禁止なのよ。人の心は、自分の心で動かすものだよ」
 めいるはそう言って、窓から飛び降りるように出て行った。
「ちょっとぉ」
 赤の少女は驚いて窓際に駆け寄る。ここはマンションの10階なのだ。窓の外には黒マントの女性…マジョワカバが空飛ぶ箒で待機していて、めいるはその箒に飛び乗ったのだった。
「がんばってね」
 めいるは優しくそう言うと箒が動き出し、大きく弧を描いて飛んで行ってしまう。赤の少女はそれをずっと目詰めていた。

***

 黒の魔女見習い服のりんくと青緑のデザインの違う魔女見習い服を着たさいとは連れ立って箒で空を飛んでいた。
「なぁ…りんく、さっきはごめんなぁ」
 突然、さいとは済まなさそうに言う。
「ううん、さいとは私の事を思って言ってくれてるって事はわかってるし…悪いのは私なんだよ…」
「でも…俺…」
 真剣に謝ってくるさいとだったが、りんくは笑いを堪えるように震えている。
「さいとぉ…その格好でそんな事言われても…おっ可笑しくて……」
 りんくは極力、隣を飛んでいるさいとの姿を見ないようにしていた。さいとはめいるの魔法で女の子にされて、しかもさいと自身の趣味の魔法で不自然な程の大きな胸をブルンブルンと揺らしながら箒で飛んでいるのだった。
「俺は真剣にだなァ」
「だから、それが余計に………って、あれ」
 必死に笑いに耐えながら答えていたりんくは何かを見つけた様に箒を降下させていく。さいともそれに続いた。りんくの向かう先には何かを必死に探す女性の姿があった。
「どうしたんですか?」
 りんくはおどおどしているりんく達の母親くらいの年代の女性に尋ねた。
「娘が突然…居なくなったんです。え…、あなた、その服…娘も同じ物の色違いを…」
 女性の回答にやはりと思ったりんくは言う。
「娘さんを最後に見たのは何処ですか?案内してもらえませんか?」
 母親はりんくのキリリとした目に藁をも掴む気持ちで、自宅の娘の部屋に案内した。そこは何も変わった事は無い普通の女の子の部屋だった。
「学校から帰って来て、この部屋に入って、外に出た形跡は無いんです」
 母親は不安そうに説明する。
「つまり、ここで何かがあったと考えるのが……」
 りんくは部屋を見渡して考えていると、さいとは呟くように言う。
「おばさんの娘さんって…青い髪に眼鏡をかけた子ですか?」
「ええ、そうですがっ」
 母親は驚いて答える。さいとは机の上にあった携帯ゲーム機を手にしていた。その液晶の画面を見せて言う。
「ここにさぁ…」
 そこにはゲームが勝手に展開していた。その主人公の特徴が居なくなった少女と一致していたのだった。
「ゲームの中に入っちゃったって事?」
 りんくは驚いて言う。
「それって、どういう?どうやったら戻ってくれるんですか」
 母親は切実そうに尋ねる。
「たぶん、ゲームをクリアするまで出て来れないんじゃ?」
 りんくは困った様に言う。さいとは考え込んでしまう。
「…でも、これロープレだぜ…すぐには終わらないだろうし…。ん〜、魔法が切れるのを待つか、いや、ロープレなら、セーブして中断できるかも」
 さいとは閃いたように言う。
「だったら、セーブして出てきてもらおうよ」
 りんくは言う。これ以上、母親の不安そうな顔は見ていられないのだ。
「いや、セーブするのはプレイヤーだから、俺達が外からは出来ない」
 さいとはりんくに言った。
「じゃ、どうするの、魔法使う?」
 りんくの言葉にさいとは頷いて…。ポケットから同じ携帯ゲーム機を取り出した。
「そっちのゲーム機ではその子の物語が展開しているから、外から何もできないと思う。だからこっちの俺のゲーム機から、そっちに繋いで、直接会って話してくるよ」
 言いながらさいとは自分のゲーム機を通信モードにして起動する。りんくはあまりゲームはしないので、よくわからないと言う感じ尋ねる。
「さいと、どういうこと?」
「このゲームは通信機能を使って、同じゲーム世界を複数のプレイヤーで冒険できるのさ。ここは俺に任せて、りんくは他のところへ行ってくれ」
 りんくはイマイチ理解できなかったが、さいとを信じ、頷いて部屋を出て行く。

***

 りんくは街の様子を見渡しながら、箒で空を飛んでいた。そこにはいろんな魔女見習いがいて、いろんな魔法が展開されていた。
「みんな…思い思いの願いを魔法で叶えている」
 りんくはふと思った。
「私の願い……は」
 りんくの一番の願いは母に会う事。でも今の自分を見失いかけた状態では母には会ってはいけないとりんくは思ってしまった。それにこれは魔法に頼ってはいけない願いの様な気がした。
「何も考えずに魔法に願っちゃえば…楽なのにね」
 りんくは苦笑いしながら呟く。その瞬間、世界が鈍く映る。その変化を肌で感じたりんくは驚いて辺りを探るように見渡した。
「何が起こったの?」
 地上を見ると、車や電車が止まっている。空を飛ぶ鳥もその場で固まった様に動かない。
「時間が止まっている?」
 りんくは周りの状況から判断した。りんくの魔法携帯が着信する。ワカバからだった。
『りんくちゃんは動けるみたいね』
 出るなりワカバはこう言った。
「あの…これって」
『時間が止められているわ。魔力がある一定以上あれば一緒に止まる事は無いのよ』
 わかばは説明する。りんくは何故かその基準を超えているようだった。戸惑っているりんくにワカバは告げる。
『魔女見習いの魔法だと思うから、すぐに解けると思うけど』
「ワカバさん、動いている子が居ます」
 りんくは地上で動いている数人の魔女見習いを見つけて言う。
『その子が魔法で時間を止めた可能性が高いわ』
「わかりました。ちょっと見てきます」
 りんくはそう言うと、電話を切って箒を降下させた。