おジャ魔女りんく〜8番目の魔法!〜
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chapter5
月下の奇跡

 りんくはさいとに連れられて、ワカバの待つ兜山の頂上にやってきた。そこには魔法携帯で連絡しためいるもやって来ていた。めいるとりんくはまだ気まずい状態のままで、視線を逸らし合っていた。
「お帰りなさい。ご苦労様でしたね」
 腕組みして、見下ろす形で背の高いカリュートが嫌味っぽく言う。この山頂からは街の灯りが消えていく様が一目でわかり、りんく達の行動が無駄である事がすぐにわかるからだ。さいとはそんなカリュートを睨みつける。
「ワカバさん…私達のクラスの桂木先生が今、手術中で……」
 りんくは泣きそうな顔で言う。魔女ガエル姿のワカバの側にいた妖精シシが驚いて言う。
「桂木って…」
「そっか…」
 ワカバはしばらく考え込んで、真剣な表情でりんくを見つめ告げる。
「りんくちゃん…これを使ってみて」
 ワカバが指差したのは、さっきシシに持って来てもらったピュアレーヌパソコンだった。それを聞いたカリュートは大げさに笑う。
「本気ですか?わかばっちぃ。その娘は今朝、タップを与えられたばかりのおジャ魔女なんですよっ。そんなおジャ魔女がピュアレーヌパソコンを扱える筈が無いじゃないですかっ」
 カリュートは自信たっぷりに言う。ピュアレーヌパソコンは不幸を撒き散らす邪悪を封じる力があったが、それはピュアレーヌの力を持つ魔女、もしくは魔女見習いにしか扱う事は出来なかった。何も知らないりんくには意味が理解できなかったが言われるままにピュアレーヌパソコンを開いてみた。するとキーボードとモニターが出現し、そのモニターが何かに反応して輝きだす。
「そ、そんなっ馬鹿なぁぁぁぁーーーーーっ」
 一瞬でカリュートはピュアレーヌパソコンに吸い込まれた。カリュートの邪悪な心にピュアレーヌパソコンが反応したようだ。光が消えると、モニターの中には黒っぽいサンショウウオみたいな生物が青い顔でポカンとしていた。それがカリュートの変わり果てた姿だった。
「あなたに敗因があるとするならば、それは…りんくちゃんのポテンシャルを見抜けなかった事よ。それにしても、賭けてみたとはいえ、りんくちゃんにピュアレーヌパソコンを扱えるほどのピュアな魔力が秘められていたとは…これなら、あるいは…」
 ワカバは少し驚きながら考え込む。シシはピュアレーヌパソコンのモニターを見つめながら状況を整理する。
「これで、この鬱陶しい魔法使いは何も出来ない。後は街を何とかしないと…でも、今、人間界は孤立していて、魔女界からの応援は期待できない…ワカバの魔力は封じられ、今あるのはあの子達3人の魔法だけ」
 シシは辛そうにりんく達を見つめた。その時、ワカバの魔法携帯の着信音が鳴る。それは軽快なアコーディオンの音だった。
『ワカバちゃーん、虹宮大変な事になっているんでしょ、ツクシとナナミから聞いたよ。魔女界の対応が遅れてごめんね。すぐにみんなで助けに行きたいんだけど、扉が開かなくて、今はそっちに行けないみたいなのよ〜』
 少し幼い感じで妙になれなれしい口調だった。その相手に対してワカバは驚いてこう言う。
「女王さまっ」
 電話の相手は、魔女界の若き女王ハナだった。マジョツクシとナナミから今回の事態を知ったようだ。ハナ女王は誰とでも訳隔てなく接していた。特に同世代の魔女には友達感覚で話しかけてくる女王だった。
『今から、美空のふぁみちゃん達に応援に行ってもらうから、それまでなんとかがんばってくれる?』
 ハナ女王は申し訳無さそうに言う。しかしワカバはきっぱりと言う。
「女王さまっ、大丈夫です。虹宮の事は虹宮で何とか片付けます。だって、今、私の側に魔女見習いが3人居ますから」
 そう言ってワカバはニヤリと笑う。
『魔女見習いが3人…あ、そうか♪。うん、わかったよ。ワカバを信じるよ』
 ハナ女王はそう言って電話を切った。このやり取りでワカバが何をしようとしているか感じ取ったシシが慌てて言う。
「ワカバ、あなた、まさか…無茶よ、まだ無級なのよ、この子達、そんな話聞いた事無いわっ、上手く行くはずが無いっ」
「確かにマジカルステージは魔女見習い試験の9級に合格して初めて使える合体魔法だわ。無級の魔女見習いじゃ発動すらしない……でも、さっきのでわかったのりんくちゃんは私達が考える以上に潜在魔力が高いし、月の加護もある。ただの無級の魔女見習いじゃ無いわ。それにさいと君もかなりの潜在魔力を秘めているわ」
 ワカバは自信たっぷりに言う。
「私に月の加護?」
「俺に潜在魔力?」
 りんくとさいとは信じられないように言う。
「あのっ、私には?」
 めいるがワカバに尋ねると…、ワカバはニッコリ笑って答える。
「ごめんね〜、あなたには何も無いみたいなのよ」
「でも、マジカルステージは合体魔法で3人以上の魔女、もしくは魔女見習いが必要なのよ」
 シシに言われてめいるは不機嫌そうに言う。
「私はどうせ数合わせですよ〜」
 ワカバは苦笑いしながら続ける。
「3人の心が一つになる時に発動する合体魔法マジカルステージは2級上の魔法が使えるわ。さらに心のシンクロ率が高いほど、より強力な魔法が使えると言われています。きっと上手くいく、さぁやってみよう〜。もうこれしか手段は無いわ」
 ワカバのマジカルステージの説明にりんくは俯いてしまう。
「どうしたの?りんくちゃん」
 シシは不思議そうにりんくに尋ねる。
「心のシンクロ……たぶん、合体魔法は発動しないと思います」
 りんくは自信無く呟く。先ほど魔法堂でめいるに自分を作っていた事がばれてしまったのを気にしているのだ。自分はめいるの信頼を壊してしまったと。
「あらら……」
 ワカバは困ってしまう。
「りんく、何言ってるんだよ、桂木先生の手術はどうするんだよっ。街はっ、多くの人が困っているんだ。とにかくやってみるんだよっ!」
 さいとはりんくに詰め寄って言う。