おジャ魔女りんく〜あれが噂のT様〜
chapter2 星に願いを
1/6
 流れ星に三回願い事をすると叶うという逸話があります。流れ星を見た事がある人ならわかると思いますが、星が流れるのは一瞬の出来事です。流れ星を見つけたと認識した直後、流れ星は消えてしまう程に早い。願い事を一回唱えるのも困難でしょう。まして3回などと実質無理でしょう。でもこんな、ほとんど出来ない事がもし出来てしまったとしたら……それはレアな事、幸運な事と思えるでしょう。そんな気持ちからくる“おまじない”の様なものかもしれません。でも、それだけでこんな逸話ができるのでしょうか。
 もし、流れ星にかけられた願い事を叶えてくれる者達がいるとしたら、この逸話、説得力があがると思いませんか。そう、実は……。

chapter2
星に願いを

“……コンコン”
 窓ガラスを軽くノックする音が灯りを消した部屋に響く。寝入った所のめいるは、その眠りを妨げる音に不快な表情を浮かべつつベットから起き出してカーテンを少しだけ開いて外を覗いて見る。何が居るかわからないので、ちょっと注意深く。でも、そんな警戒心も吹き飛ぶ物がそこにはあった。
「りんくぅ〜」
 思わず感嘆の声をもらしてしまうめいる。窓を開けると黒い魔女見習い服に身を包んだりんくが箒に横座りしてめいるを待っていたのだ。大きな笑う月に照らされたりんくの金色の髪が美しく輝いていて、それに見惚れてしまっためいるは思わず頬を赤くしてしまう。
「めいる、キラリちゃんの事、知って欲しいの」
 そう言ってりんくはめいるに手を差し伸べる。昨日、いきなりめいるの目の前に現れて、りんくを独占するかのような態度で、めいるにとってちょっと気に入らない感じだったキラリという少女。彼女が何者なのか、未だ説明を貰っていないのだ。それで、今晩、全てを教えてくれるという話になっていた。
「あっ、そうだっけ」
 めいるはコロッと忘れていたように舌を出して恥かしそうに笑う。りんくは苦笑いして待っている。めいるは机の上に無造作に置いていたレインボータップを手に取り、水晶部分に触れる。眩い虹色の光が飛び出し、めいるの体を包むと次の瞬間、めいるの姿はりんくと色違いの白い魔女見習い服姿になる。胸にはレインボータップが装着され、そのタップについているピアノの様な鍵盤に指を躍らせる。タップ内に収納しているアイテムは基本的に、それに対応している短いメロディを弾く事で呼び出す事ができる。こうやって箒を取り出しためいるは窓の外へと飛び出した。
「じゃ、行くよ」
 りんくはそう言って、箒を急上昇させる。めいるもそれに習って飛ぶ。二人は真直ぐ、街の北側にそびえるカブト山の頂上を目指していた。

***

“コプコプコプ……”
 氷の入ったグラスに白い液体が注がれる。
“ドッドッドッ……”
 続いてポットに入れられた水が入り、細い棒で乱暴に掻き混ぜられる。
“カチャカチャ……”
 グラスと氷がぶつかって高い音を鳴らす。そしてグラス内が慣性でまだ渦を巻いているのも気にせずにそれを一気に喉へ流し込む緑色のカエルの様な生物…マジョワカバ。
“ゴキュゴキュ……”
「ぷっは〜〜」
 気持ち良さそうに一気に息を吐き出すその顔は酔っ払った様に真っ赤だった。
「シシ〜、無くなっちゃったよ、おかわり〜」
 ワカバは空になった茶色のビンをバシバシ叩いてアピールする。ここは双葉商店街の魔法堂。店内奥のテーブルに十数センチくらいの身長の小人の様な姿の妖精シシがやって来て怒り気味に言う。
「もう、飲み過ぎよ。何本開ける気なの」
「……ごめん、でも、今日だけは」
 不意に悲しそうな表情を見せるワカバにシシは仕方なそうに新しいボトルを取りに行く。でも一応、釘は刺しておく。
「昨日から、それ言ってるわよ」
“ガラガラ……”
 玄関の引き戸が開いて誰か入って来る。シシは酔っ払いのワカバをひとまず放置し、指を弾く。シシの姿が人間サイズの20代の女性の物になる。その姿でトコトコと店舗スペースを抜けて玄関へ行く。
「マジョフタバぁ…来てくれたのぉ〜、でも、遅いよ」
 シシはそこに居た黒マントの女性を見て嬉しそうに言う。
「済まない。任務があったから」
 フタバはそう言ってマントを脱ぎ、黒いワンピース姿になる。フタバの後ろには白い仮面を付けた長身の青年が続いてくる。
「邪魔するよ」
「……ケイさん、いえ、あなたは」
 シシは驚きの表情でケイという青年を見上げる。ケイは静かに微笑んでシシの言葉を遮る。
「ケイという事にしておいてくれ」
 フタバとシシは少し呆れた表情を浮かべていた。そしてシシがフタバに言う。
「昨日から待っていたのよ」
 フタバは済まなさそうに頭を下げて、奥のテーブルのワカバの隣に座る。
「随分と酔ってるみたいね」
「フタバちゃんを、待っていたんだよぉ〜」
「それで、昨晩からずっとなのよ」
 シシがワインのボトルとグラスを2個手にフタバの隣に座りながら言う。フタバはシシに尋ねる。
「魔女見習いにこんな情けない姿みせているの?」
「りんくちゃん達、今日は夏休みの宿題をしに学校の図書館に行ってたみたいだから大丈夫よ」
「ああ、夕方に学校から出てくるのを見たわ。確か弟子って二人…一人増えてなかった?」
 フタバは任務の途中で見た学校の校門前の様子を思い出すように言う。
「きらりんがきたのらぁ〜」
 酔って舌足らずな言葉でワカバが応える。シシはルビーの様な色をしたワインをグラスに注ぎ、フタバの前に置きながら付け足す。
「前のメガミ停止の時にマジョツクシが送ってくれた助っ人の彗星魔女見習いが昨日、やっと到着したの」
 メガミ停止とは数ヶ月前、りんく達が魔女見習いになるきっかけとなった事件だった。それって、遅すぎでは無いかとフタバはしばし苦笑いし、表情を戻して尋ねる。
「彗星魔女の見習い?」
「星の海出身の特殊な魔女の一族で、箒星を操り、星に願いをかける者の願いを叶えてまわっている魔女の見習いね」
 シシが説明する。フタバはそれは知っているという感じに頷いて問う。
「その彗星魔女と発明家マジョツクシの接点は?」