おジャ魔女りんく〜あれが噂のT様〜
chapter3 広がる波紋
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 カーテンの隙間から日の光が差し込む気持ちの良い朝。夏休みでいつもは昼前に母親に叩き起こされるまで寝ているさいとだったが、その日は既に起きていた。シャッとカーテンを開けて、まだ低いお日様と対面する。
「今日も一日、頑張るよ、ばっちゃ」
 気分が良いからか、やる気もどんどん湧いてくる気がした。そんなさいとのやる気は勉強机に無造作に置かれた三角形の携帯電話――デルタタップに向けられる。昨晩、久方ぶりに会ったお婆ちゃんから貰ったものだ。
“内部メモリに使い方とかのデータがあるから、しっかりと読んでおくぢゃぞ”
 お婆ちゃんの言葉が脳裏に甦り、さいとはデルタタップを手に取り開いてみる。形は変わっているが中身は普通の携帯電話みたいだ。電源ボタンを長押しすると携帯が起動し2インチ程度の液晶に絵が出てくる。それはさいとと同じくらいの年齢のお婆ちゃんが仲間達と一緒に映っている写真画像だった。さいとは真ん中に写っている緑色の髪の少女を見つめて呟く。
「ばっちゃとワカバさんと…あとは知らんな」
 さいとはワカバの謎を思い出しながら、ファンクションキーでメニュー画面を呼び出す。そしてメニューを辿って内部メモリにアクセスする。いくつかのフォルダがあり、その中にマニュアルと名前のつけられたフォルダが見つかったが、別のフォルダの名前が気になってそちらを先に開いてみた。そこでさいとの手が止まる。
「このフォルダって……ばっちゃ、まさか、これを」
 さいとは何かに気が付いて驚きに震える。そこに部屋のドアの向こうから母親の声がする。
「さいと、起きてるの、片付かないからご飯食べに来なさい」
「へいへいっ」
 さいとはとりあえず、デルタタップを机に置いて部屋を出て行く。

chapter3
広がる波紋

「ええっ、テレビに出んのかっ」
 食パンを食べていたさいとは同じ食卓についていた父親の言葉に驚いて聞き返してしまう。さいとの父親ゆうやは照れながら説明する。
「今度、10周年を記念してメガミの特番を生放送でやるんだ。それであの時の開発メンバーが全員揃うんだよ」
 そのメンバーと会うのを嬉しそうにゆうやは話している。
「一番、会いたいのは美人の筑紫チーフなんでしょ」
 さいとの母親の彩乃が意地悪っぽく言いながら、紅茶をさいとの前に置く。
「いや、チーフとは10年会っていないから、そりゃ楽しみだよ」
 ゆうやはホントに嬉しそうだった。どんどん不機嫌になっていく彩乃にさいとは少し不安を抱く。
「見学に行くわ。さいとも行くでしょ。りんくちゃん達も誘いましょ。良いでしょ」
「ああ、もちろんさ」
 ゆうやは簡単に答える。彩乃は何処か拍子抜けという感じに笑っていた。さいとは残っていた食パンを喉に押し込み、紅茶で流し込んで席を立つ。
「じゃ、りんく達、誘ってくるよ」
 何だか気まずくて、とりあえず脱出してしまうさいとだった。

***

 学校へ続く桜並木。さいとはりんくに連れられて、そこを歩いていた。
「何で今日も学校なんだよ」
「昨日はあれで全然、宿題進んで無いんだもの」
 さいとのぼやきにりんくが答えた。りんくを誘いに行ったさいとはこういう訳で一緒に学校へ行く事になったのだ。今日もりんくの腕にべったりなキラリが当たり前のように言う。
「そーよ、そーよ」
「お前は寝てただろっ」
 思わずつっこんでしまうさいと。しばらくするとめいると合流する。そこでさいとは話を切り出す。
「実はさ、うちの父ちゃんが今度、テレビに出るんだ。そんで、その収録の見学に来ないかって言うんだけど、行くか?」
「えっ、テレビっ」
 めいるの食い付きは物凄く良かった。さいとはめいるの態度に苦笑いしながら続ける。
「メガミの特番をやるんで、開発スタッフが呼ばれているんだ。父ちゃんの話じゃマジョツクシさんも来るみたい」
「えっ、マジョツクシっ」
 キラリは嫌そうに言う。りんくは不思議そうに尋ねる。
「どうしたの?」
 りんく達が知っているマジョツクシはマジョワカバの親友で魔女界の発明家にして人間界でメガミシステム開発に大きく貢献した魔女だった。そしてキラリのパートナーメカのリューセィを作ったのも彼女だ。キラリは不満そうに言う。
「マジョツクシに会うと、いつもリューセィの扱い方が悪いって怒られるんだもん」
「職人肌なんだ」
 さいとは何となくわかるという感じに納得した。こうしてテレビの事であれこれ話している内に学校についてしまう。りんく達は昨日と同じに図書室にこもって宿題を始める。

 りんくとめいるは協力して宿題をどんどん片付けていく。キラリは日当たりの良い窓際で寝てしまっている。そしてさいとは一人、デルタタップを開いていた。液晶画面には今朝のあのフォルダが表示されていた。
“わかばのナ・イ・ショ”
 と名前のついたフォルダだった。カーソルをそこに合わせてフォルダを開くと中には日付と思われる数字がついたログデータがたくさん入っていた。その一番古いと思われるデータを読み出してみる。

――――――
2004年11月28日
スタート

今、流行のブログと言うものをはじめてみました。
えっと…ここは、わかばのナ・イ・ショ日記なんですけど、何がナ・イ・ショかって言われると…それもナ・イ・ショだったり、いや、それがナ・イ・ショなんです(笑)。

とりあえず、日々の出来事や、お気に入りグッズ(主に玩具系)の事を楽しく書いていけたら良いなぁって思っています。では、よろしくです。
――――――

 と言う感じに日付と文章、そしてそれに対する訪問者コメントなどが延々と続いていた。
「これって日記だよな」
 さいとは呟く。日記と言ってもウェブログ(ブログ)というネットワーク上に置いて公開していたと思われるものだった。
「ばっちゃ…」
 昨晩、ロイヤルパトレイダーのいた手前、さいとの問いに答えられなかったお婆ちゃんがさいと達に残してくれた答えだったのではとさいとは理解し、ブログを読み始める。