おジャ魔女りんく〜あれが噂のT様〜
chapter5 未来託して
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 ミドリがりんく達の前から消えて数日、りんくはずっと考えていた。この世界と自分の役割について…。
「仮にこの世界が誰かに作られた世界だったとして、私はどうすれば良いの…。それより誰が何のために…こんな世界を…」
 ミドリは自分がノイズの様な存在だと言った。創造主の雑念が生み出した存在。その雑念を与えたのはどうやらりんく達らしいのだ。りんく達は密かに“わかば”の事を調べていたが…。考えが何度もループする。そしてそのループの度に浮かび上がるシルエットがあった。あの青い瞳を忘れる事は出来ない。そう、彼ならば、全ての辻褄が会う気がした。
「りんく様、まぁ〜だ悩んでるの〜〜」
 間延びした声がりんくの頭上から降ってきた。リューセィに乗ったキラリだった。キラリを見上げたりんくはすでに星が瞬く時間になっていた事を知る。キラリはそんなりんくに呆れながら、リューセィの胸の水晶部に触れる。その直後、色とりどりの輝きが二人の周りに飛び出した。
「流星の願いを集めてきたの?」
 りんくはキラリに尋ねる。
「こんな時だけど、やる事はやっとかないとね。早く彗星魔女になりたいし」
 と答えてキラリは叶える願いを探し始める。
“早く、世界が平和になりますように”
“魔女界と人間界が共存できますように”
 と願っているものが多々あるのに気がついたりんくはハッとする。
「この世界が何であったとしても、住んでいる人がいるんだから…争いは早く無くさないと駄目なんだよ」
「…どうしたの、りんく様」
 キラリは他の願いを叶えながら尋ねる。
「私もみんなの願いを叶えるよ、私達の力で。たぶん、それが私達の役割」
 目標が見つかったのか、りんくは嬉しそうにそう宣言した。そこにめいるがやってきて告げる。
「でも、具体的にどうする気?」
「ん〜」
 りんくは少し考えて…自信無さげに呟く。
「ワカバさん達、過去に魔女見習いだった人達にヒントがあるんだと思う…」

chapter5
未来託して

 カーテンの隙間から日の光が差し込み、朝を告げている。ベットから起き出したさいとは眠たそうに目を擦って、まいったように呟く。
「興奮して一睡も出来なかった」
 さいとは勉強机に無造作に置いてあった三角形の携帯電話――デルタタップを手にして思い出す様に言う。
「ばっちゃに会えたんだ…無理ないか」
 それにしても体が重かった。寝てないから仕方ないかと苦笑いしつつ、何となくデルタタップの背面液晶部触れてみる。魔女見習いタップモードで起動したデルタタップから星型の粒子が飛び出し、さいとの体を包んで弾けると、さいとの姿は白いワンピース状の魔女見習い服姿になる。そして興味深く鏡に映る自分の姿を確認してみる。
「いいっ、こなきばばぁ!」
 さいとは思わず悲鳴に近い声をあげてしまう。
“コツン”
「誰がこなきばばぁぢゃ」
 と、さいとをこついて怒るその声はさいとの死んだ祖母、ゆうきだった。ゆうきはずっとさいとの背中におぶさっていた。それが魔女見習い服を着た事でさいとの目にも見えるようになったのだ。
「どうした、さいと。そっちの趣味に目覚めたのか?」
 ゆうきは悪戯っぽく笑って告げる。さいとは全力でそれを否定する。
「違うっ、断じて違うっ。ちょっと着てみただけだよ。それよか、ばっちゃはどうして、まだ居るんだよ。昨日の晩に帰ったんじゃ…」
「お盆ぢゃからのぉ。あん時はロイパの手前、手早く帰って見せて、しばらくさいとを見ていようと思うたんぢゃが、そうは言っておれん状況になっとるみたいでな」
 急に真剣な表情を見せたゆうきにさいとは思わず、強張った顔をしてしまう。

 白い星模様のワンピースのスカートをズボンに押し込んで、さいとは自慢げに言う。
「これなら、Tシャツにしか見えないもんな」
 これを着ていないとゆうきの姿が見えない。でもスカート姿で外に出るのは困るという事で、咄嗟に思いついた回避方法だった。未ださいとの背中にピッタリとくっ付いているゆうきは急かす様に言う。
「急げ、さいと、急ぐんぢゃ!」
「わかってるよぉ〜」
 そう言って、さいとは朝食を用意していた母親に「今朝はいらない」と言って、家を飛び出して行く。向った先は、ゆうきの指示でマンションの一つ上の階、りんくの自宅だった。
「鍵かかってるよ」
 さいとが扉を弄りながら言う。インターホンは鳴らし続けていたが…。
「ふうがのやつ…まだ、寝てんなぁ。この一大事ぢゃと言うに」
 ゆうきは呆れていた。ふうがが小説家で、かなり不規則な生活をしているのはさいともゆうきも知っていた。
「SPTを使うんぢゃ」
「そっか」
 ゆうきに言われ思い出したようにさいとは左手に着いているブレスレットを扉の鍵穴に接触させた。
“ピッ……ガチャ”
 認識音の後に鍵が開く音がする。SPTには鍵として使える信号を発する事もでき、信号パターンを事前に登録しておく事で、この様に扉を開く事ができた。さいとはよくりんくの家に出入りしていたので、りんくの父ふうがが何時でも入れるようにと登録してくれたのだ。
「りんく〜、無事かっ」
 さいとは声を上げながらりんくの家に上がっていく。
「さいと君、どーしたの……って」
 眠たそうに瞼を擦るりんくの父ふうがが寝癖頭とパジャマ姿で奥の部屋から出て来た。ふうがはさいとの姿を見て固まってしまう。そんなふうがにゆうきは何でも無いように声をかける。
「ふうが君、ご無沙汰」
「ゆうきさん、お久しぶりッス…お元気そうで何より」
 ふうがは慌ててビシッとし、挨拶する。ゆうきは空かさず、ふうがのおでこに手を伸ばし“バシッ”と音を立てて叩く。
「死人に元気言うなっ」
「す、すいませんっ」
 謝りつつ、十分元気だと思っているふうが。さいとは何か引っ掛かりを感じ、ある事に気がついた。
「ふうがさん、ばっちゃが見えるん?」
「まぁ、そういうこと」
 ふうがは曖昧な返事をするが、ゆうきは思い出したように声を上げて話を変える。
「りんくは何処ぢゃ!」
「りんくなら、こっちの部屋で寝てますけど…」
 ふうがが答えると同時にさいとはりんくの部屋に飛び込む。そこでは、りんくのベッドにりんくとキラリが並んで寝ていた。その二人を青いオーラが包んでいるのが見えた。