ダブルウィッチ☆プリキュア
第2話「閃光の雷キュアライトニング轟く!」
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 広大なる宇宙に輝くエメラルド。それは水の惑星とも呼ばれ、その水が育んだ生命の輝きなのかもしれない。この惑星で高度に発達した知的生命体である人間という種は、この惑星を地球と呼ぶ。
 この宇宙の宝石の価値を認め、我が物にせんとする闇に属する者達が広大すぎる宇宙には、必要悪の様に存在していた。従い、当たり前のように、地球も吸い込まれそうな漆黒の闇に迫られていた。しかし闇は地球を侵食する事はなく、結果として惑星の輝きをくっきりと際だたせるのに役立ってしまう。
 何故、闇は地球を欲しているのに手が出せないのか。その答えは守護者(ガーディアン)の存在だった。地球の様にある程度発達を遂げた惑星には密かに守護者が存在している。その守護者が惑星への外部からの侵略を水際で防いでいるのだった。つまり、今、この瞬間も地球のすぐ側では守護者と闇が睨み合いを続けているのだ。

 間近で見る海の青と雲の白、そして大地の緑の入り交じった巨大な姿に圧倒されてしまいそうな地球の衛星軌道上。そこで人知れず赤と黒が対峙していた。
 赤い方は二等辺三角形に翼と尻尾を生やしたシルエット。それは伝説で語られるドラゴンと呼ばれる生物に酷似していた。これは魔法を操る龍で魔龍と呼ばれていた。この世界とは別次元にあると言われる竜宮の園より派遣された守護者なのだ。惑星に派遣された魔龍はまず惑星を結界と呼ばれるバリアで覆う。闇はこの結界に阻まれて惑星に潜入する事が出来ないのだ。
 一方、闇の空間に一際黒い場所があった。ゆらゆらと揺らいでいたが、人の形をしていた。それはマクロノースと呼ばれる闇の生命体。地球よりはるかに高度な文明を誇る惑星を、その発達した文明故に食い潰し闇に落ちた生命体。彼らは滅び行く自分達の惑星を棄てて宇宙に飛び出した。そして新たなる惑星を探して宇宙をさまよううちに地球に辿り着いたのだ。地球は彼らがやり直すのには最適な惑星だった。

 魔龍とマクロノースは一定の距離を置いて睨み合っていた。
「たった7サイクルで復帰とは。しかしまだ傷は」
 魔龍はマクロノースの胸の部分にポッカリと開いた穴を見つめていた。サイクルとは惑星が一回転する時間を言っていて、つまり地球では1サイクルが1日になる。
「そっちも苦しそうだな」
 マクロノースの視線は魔龍の頭部の左側に向けられていた。魔龍の頭部には二本の角があるのだが、右側の角に比べ左の角が短く、その短角には生々しく折れた跡が残っていた。
 この二つの存在は何十年とこうやって睨み合ってきていた。しかし、魔龍の折れた角とマクロノースの胸の穴。七日前に何かがあった事を物語っていた。
「結界の補修、そして地上の混乱も片付いていない。ならば、こっちもいつまでも再生ポッドに入っている場合じゃない。体が動けば十分という事だ」
 マクロノースはそう言うと両腕を広げた。こうして広げた深い闇から、細かい闇の球体が地球を目指して飛び出して行く。
「悪夢の種(ナイトメアシード)かっ!」
 魔龍は叫ぶが、既に遅く、悪夢の種は魔龍を通り越していく。しかし、邪悪なそれは地球を覆う結界に行く手を阻まれ弾き返される。しかし、一点だけ違った。それは一週間前にマクロノースが自ら致命傷になり兼ねない深手を負いながらも開ける事に成功した結界の穴だった。この時はその穴からたった一つの悪夢の種を送り込むので精一杯だった。魔龍はその失態に対し、自ら左の角を折り、悪夢の種を追撃させたのだ。その為、魔龍本体の魔力は大幅にダウンしていた。結果、結界の補修もおぼつかないのだ。大量に放った悪夢の種の一部はこの小さな結界の穴を通じて地上へと降り注ぐ。
「数撃てば当たるかっ」
 魔龍は言い捨ててながら、マクロノースとの距離を詰める。悪夢の種は芽が出てやがて夢を壊すモンスターが生まれると言われている。しかし所詮、低級な使い魔。操り導く者が無くてはたいした脅威では無かった。その役目を果たすのがマクロノース。彼を倒せば、地上に落ちた悪夢の種の処理はそう難しい事じゃ無いのだ。そう判断した魔龍の鋭い爪がマクロノースを切り裂く。しかし、その姿は悪無の種となって散り散りになる。
「何っ」
 確かにそこに居た。それは疑う余地も無かったのに。マクロノースの姿を形成していた悪夢の種はそのまま地上へ落ちて行く。その数多くの種の集合から声がする。
「俺の勝だ。ストロ」
 勝ち誇った物言いにストロと名を呼ばれた魔龍は確信する。
「謀ったな……ゼクロ」
 マクロノースをゼクロと呼ぶストロ。元々ゼクロは肉体を母艦で再生中で、今回のゼクロは悪夢の種をベースに作ったハリボテで、そこに精神エネルギーだけを宿らせていたのだ。しかも、そのまま精神だけで種と一緒に地上に降下してしまったのだ。完全な敗北を味わうストロ。そしてゼクロの地球侵略計画は次の段階へ進もうとしているのだ。ストロは右側の翼を手繰り寄せ丁寧に摩りながら小さな闇を飲み込んで行く光り輝く地上を眺めるのだった。迷っている時間は無いと知りながら…。

***

“という訳で、ゼクロを追い、地上に降りてきた”
 虹宮の北側に位置する貯水池側の公園。そこのベンチに腰掛けた緑髪のツインテールの少女の手にしている携帯電話のスピーカーから発せられている声がそう言っていた。液晶画面にはディフォルメされた片角片翼の赤い龍。
「そしたら、ユメコワーセに私が襲われていて、それを助けてくれた」
 少女、桂木わかばが思い出すように言うと、赤い龍ストロは自信たっぷりに答える。
“この惑星担当の守護者だからな”
「でも、その直後……」
 わかばは半ば呆れ顔だった。ストロもガッカリしている。
“君を踏みつぶしてしまい、今はこのザマだ”
 闇の侵入を許してしまった守護者は、闇を追撃中に不意の事故を起こしてしまう。その事故の被害者がわかば。しかし、わかばがいずれ探し出さなくてはならない戦士の素質があった事から、守護者ストロは自らの命を分け与え、わかばを復活させ、さらに戦士の力として自分の右翼を差し出したのだ。その為、急激にパワーダウンし、今は精神体で携帯電話の中に宿ることでわかばとコンタクトを取ることしか出来なくなっていた。
 今は、戦士として覚醒したばかりのわかばに事情を説明している最中だった。
「さっき、倒したのが、一週間前に送り込まれた最初のナイトメアシードだったんだね」
 わかばはユメコワーセを倒した後に出現したドリームピースと呼ばれる破片を見つめていた。