ダブルウィッチ☆プリキュア
第2話「閃光の雷キュアライトニング轟く!」
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“雷の力を持つ、我が左角を地上に送り込んだ。左角は首尾良く戦士に巡り合えた。キュアライトニングだ。キュアライトニングはこの一週間、ナイトメアシードから生まれたユメコワーセを抑え込んで被害を最小限にとどめてくれた”
 ストロの話にわかばはギュッと唇を噛み締める。ちょっとだけ涙が滲む。
「……一週間か。ねぇ、キュアライトニングの事なんだけど…」
 わかばが尋ねようとした時、公園に五條風雅がやって来た。
「わかばさーん、無事だったんですね。連絡つかないから心配したんですよ」
 わかばの姿を確認した風雅が駆け寄ってきた。わかばの携帯の画面がスッとシフトしてストロが消え、通常の待ち受け画面に戻る。
「ごめん、風雅君。携帯、調子悪くて」
 わかばは手を合わせて謝る。わかばと風雅は大虹中学校の超常現象研究会の部員で、都市伝説になっていたキュアライトニングの事を調べていたのだった。わかばはキュアライトニングを探していて、この公園でユメコワーセに襲われ、そして自分もプリキュアになってしまったのだ。風雅は公園を見渡す。公園はプリキュアとユメコワーセの戦闘の為にいたる所ボコボコに破壊されていた。
「ここでキュアライトニングが戦っていたんですね」
「えっと…えっと」
 わかばは答えに困っている。嘘が苦手なわかばはごめんと小さく言うと俯いてしまう。風雅は不思議そうに首を傾げる。

***

 シュク川という川沿いのマンションの一室。夕方で薄暗いにもかかわらず、日浦あずさは電気もつけないで自室のベットに腰を降ろす。そのまま両膝を抱くように丸くなる。しばらくてポケットから携帯電話を取り出す。わかばが持っていたのと同じデザインのタッチパネルタイプの携帯電話の液晶のバックライトだけが部屋の明かりであずさの表情を浮かび上がらせる。
“面と向かって話をするのは初めてだな。今までは音声通信のみだったからな”
 画面にいきなり、赤い龍が出現する。魔龍のストロだ。携帯を持つあずさの手に力が入る。そのまま力任せに壁に携帯を投げつける。
“おいっ、精密機械アンド生命体が宿っている機械になんて事を”
 派手に壁に激突し、床を転がる携帯だったが、何処も壊れていなかった。立ち上がったあずさは怒鳴る。
「なんで……なんでっ」
“何を怒っているんだ……ライトニング”
 ストロは困った表情であずさを見上げていた。


 一週間前。
 あずさは虹宮を訪れていた。天気は土砂降り。しかし、足取りは軽かった。趣味のお菓子屋巡りのついでに親友の所へ遊びに行くつもりだった。約束はしていない。会えなければそれでも構わないと思っていた。しかし、絶対に会えるとも思っていた。自分がそう望めば叶えてくれる。彼女とはそんな間柄だと自負していた。
 国道を渡ろうとして歩道橋を登り切った所でポケットに入れていた携帯電話のバイブレーションがメール着信を知らせる。ポケットから取り出した携帯の画面にはわかばからのメールが到着したことを知らせる画像が表示されていた。
「何かしら」
 呟きながら、片手で携帯を操作していると、突風に持っていた傘を弄ばれる。咄嗟に傘を両手で握りしめたあずさは携帯を落としてしまう。そのままカンカンとあずさの携帯は歩道橋の階段を転がり落ちていく。壊れたんじゃないかと困った表情で階段を降りようとするあずさだったが…。
“ガッ”
 一瞬、眩しさに目を閉じてしまう。雷のようなモノが歩道橋の下。あずさの携帯に落ちたのだ。慌ててあずさが階段を駆け下りると、そこには獣の角のようなものが突き刺さったあずさの携帯電話が転がっていた。
「保証きくかな」
 あずさはポツリと力なく呟いた。

 数十分後。あずさが契約している携帯電話会社ハードバンクのサービスショップにあずさの姿があった。
「あの……修理を依頼したいのだけど」
 と言いながら、カバンから携帯を取り出したあずさは言葉を失う。あの突き刺さっていた角は消えているのだ。しかもデザインが変わっている。
「随分とデコレーションされているみたいですね。ここまで改造されますと、サービス対象外になってしまいますが」
 女性店員が困った表情で言う。
「すいません。結構です」
 あずさは小さな声でそう言うと足早に店を出た。そして変わり果てた携帯を見つめる。あずさの携帯はシルバーの無機質な筺体だったはずだが、今は白地に金色の装飾が施されている。それも何かの紋章のように。強いて言うなら、簡略した龍の頭部と雷の意匠だった。
「いったい、どうなっているの?」
 あずさは雨の上がりかけた曇り空を見上げて呟いた。急に空がさらに暗くなる。近くのシュク川の川原に黒い霧が発生しているのに気付いたあずさは何事かと走りだす。
『ナイトメアシードが活動を始めたんだ』
 手の中から声がした。いつの間にか通話状態になっていた携帯電話からだ。あずさは携帯のスピーカーを耳あてて尋ねる。
「あなたは誰?いったい、何が起こっているの」
『私はこの星を守護する者。君は選ばれたのだ雷(いかづち)の戦士に』
 電話の声はそう言うが、あずさは川原に出現した巨大な手がムチのような形状の怪獣に目を奪われていた。怪獣は川原で遊んでいた子供たちに容赦なく襲いかかろうとしていた。
“バシッ”
 あずさは手頃な石を拾い、怪獣に投げつけ、怪獣の気を自分に向けながら叫ぶ。
「早く、逃げて」
 あずさの方を向きながらもすぐに子供に向かう怪獣にあずさは何度も石をぶつけて注意をひく。
「これはいったい何なの」
 あずさは何か知っている素振りだった電話の向こうに問う。
『人の悪夢を具現化したユメコワーセという魔物だ』
「私が聞きたいのは、どうして子供ばかり狙うのかって事っ」
 ちょっとイラっときたあずさが声を荒げる。
『それは……そういう悪夢を見た人間がいたのでは…としか言えないが』
「それじゃ、どうすればいいのっ」
『君は選ばれたんだ。既にやるべきことは心にイメージ出来ているはずだ』
 こうしたやりとりの後、あずさはやはりそうなのかとため息をつく。そして呪文のように唱え、携帯のタッチパネルをなぞる。
「フェイズシフトプリキュア」
 画面表示がスライドして筺体に描かれたものと同じ紋章が出現し光を放つ。あずさの体の各部で光が弾けて、あずさの姿が変わっていく。