おジャ魔女かぐら
第3話「魔女失格!?」
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 魔女見習い教習所四日目の午後。教官の魔女に連れられた魔女見習い達が教習所の建物から出てきた。これから今日の実技講習が始まるみたいだ。

「あそこに浮島が見えるでしょ、今からあそこへ行きます」
 教官のマジョサリィが指差す先には小さな島が虹色の空に浮かんでいた。そこにはオーロラ色の木々が生い茂っている。ちょっと不思議な風景だが、魔法の世界であるここではさして珍しいものでは無かった。マジョサリィの言葉に従い、三人の魔女見習いは三者三様の動きを見せる。
 生粋の魔女で飛び級扱いで教習を受けているナスカというブロンドのウェイブの髪にさめた目をした少女は、指を弾いて箒を取り出し、横座りで飛び立つ。
 月からやってきた月魔女の少女、月影かぐらは左右の肩の辺りに声をかける。
「シロ、クロ、お願いね」
 すると、群青色の髪を左右で束ねている橙の大きな髪止めから返事が返って来る。
「了解」
「仕方ねーな」
 そして髪止めから飛び出した白と黒の兎型の妖精はかぐらの上腕に長い耳を絡み付けて、もう一方の耳を翼の様に羽ばたかせて飛び始めた。
 氷の様な髪と雪の様な肌をした雪娘の深雪は大空に向って控えめに声をかける。
「クラちゃん、来て」
 すると即座に曇り雲が飛んで来て深雪の足元に止まる。深雪はその雲に飛び乗って一気に上昇する。
 こうして飛び立った三人を地上から引きつった表情を見ていたマジョサリィは自分も箒を呼び出し、教え子達の後を追いかけるように宙に舞う。

 先に浮島に到着した三人はマジョサリィが来るのを待っている間に雑談を始める。
■挿絵[120×120(5KB)][240×240(15KB)]
「何なんですの、あの“召使飛び”と“キントウン”は」
 呆れ半分のナスカの問いにかぐらと深雪は苦笑いする。
「めしつかいとび?」
「きんとうん…って、クラちゃんの事?」
 かぐらは興味深そうに深雪の雲を見ながら尋ねる。
「クラちゃんって言うんだ」
「うん、クラウド(雲)のクラちゃんなの」
 そのまんまな名前にナスカは呆れを通り越してため息をついている。雪の世界の魔女達は雪を自在に操る事が出来るとされていて、雪を降らせる雲に乗るのも簡単な事なのだ。かぐらとナスカはそんな感じに納得する。しかし、ナスカはかぐらの飛び方には納得出来ない風に。
「月ではみんな、そんな飛び方をしますの?」
「えっ……ううん、これは…たぶん、私だけだと思う」
 かぐらは突然の問いに戸惑い苦笑いしながら答えた。そこには何か特別なものがあるみたいに…。

***

 それはかぐらがシロとクロに出会ってすぐの頃、月での出来事。
 月にある小規模な魔女の世界、月光界の都市ルナトピア。そこにある魔女学校の屋上の扉が開かれる。屋上に出てきたのはシロ、それに続いてクロだった。
「こんな所に居たんですね」
 散々探して、やっと見つけたという含みを込め、シロはやれやれという感じに告げる。その言葉の先には屋上の隅でうずくまって啜り泣いている幼いかぐらが居るのだった。
「アルテに苛められたんだろ。やられたらやり返してやれよ」
 クロが呆れている。アルテはかぐらと同じ、月の次期女王候補。何かとかぐらを敵視しているのだった。
「アルテ殿は狡猾だ。こうならない様に我々がいるのではないか。これは我々のミスだ」
「んな事言われてもなぁ…」
 シロに厳しく言われ、クロは困ってしまう。かぐらはグズッたままだ。それをまずは何とかしなくてはと、シロとクロは顔を見合わせる。そして、二人してかぐらの左右に回り、長い耳をかぐらの上に巻きつける。それがくすぐったかったのか、かぐらは未だ涙でぐちゃぐちゃな顔をあげる。
「じろ…ぐぅろぉ…」
 シロとクロはかぐらの腕に巻きつけたのとは反対側の耳を羽ばたかせ、一気に飛び上がる。不意にルナトピアの上空に飛び上がったかぐらはいつしか泣くのを忘れて、その景色と風に魅入ってしまっていた。
「忘れないでください。我々は常に姫の側にいます」
「ま、そーいう事だ」
 二人のそんな言葉にかぐらはまだ涙声だが嬉しそうに答える。
「ありがとう」
***

「それ以来、姫はこれをいたく気に入られまして…」
 と言うシロにかぐらは照れながら説明する。
「普通の月魔女は自分自身に魔法をかけて空を飛ぶんだけどね」
 月自体の溢れる魔力に包まれた月魔女には箒は無用だった。
「何だか、翼が生えたみたいで好きなんだな〜」
 かぐらがシロとクロの長い耳を見ながら嬉しそうに言っていると、マジョマリィが箒で降りて来た。
「今日の教習は魔法の箒の使い方をマスターする事が目的なのですが…」
 マジョサリィは、この浮島に行く事で三人の箒の扱い具合を知りたかったみたいだ。結局、それに答えたのは箒での飛行方法しか持たないナスカだけという訳だ。
「あっ、そうだったんですか」
 かぐらは思い出したように慌てて、胸の魔女見習いタップのボタンを楽器の様に演奏する。すると、生き物の様に弾けたタップから箒が飛び出した。
「今は、魔女見習いだもんね」
 かぐらは悪戯っ子の様に舌を出して苦笑いした。それを見て、深雪も真似をして箒を取り出した。
「魔女見習いタップの扱いには熟知しているみたいですね」
 マジョサリィが言うと、かぐらの腕に巻きついているクロが嫌味の様に口走る。
「散々、人間とか魔女見習いの本とか読んでるからなぁ」

「それじゃ、飛んで見せて」
 気を取り直して、浮島での教習が始まる。ナスカは今更という感じだったが、綺麗な動作で飛び上がる。深雪は初めて箒に腰をかけ、ゆっくりと慎重の浮かび上がっていく。同じくこれが初めてというかぐらは…。
「うーん、うーん」
 箒に跨り唸り声を上げてみるが一向に動く気配が無い。
「箒に魔力を流し込む感じで…。やがて、箒内に行渡った魔力が箒から漏れ出すように一定方向の力を生み出します。それを上手くコントロールして飛ぶのです」
 マジョサリィはさらりと原理を説明するが、何の変化も無い箒に跨っているかぐらは、必死に魔力を込めようとして…。
「うーん、うーん」
 やはり、唸ってしまう。