おジャ魔女かぐら
第4話「金色の魔女」
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 夜の魔女見習い教習所。その食堂にかぐらのパートナーである黒い兎型妖精のクロが入って来た。その後ろには水色と黄色の光がついてくる。
「クロさん、お疲れ様」
 夕食を食べていた深雪がクロに労いの言葉をかける。水色の光が深雪の方へ飛んで行く。黄色の光は食堂の隅で食事中のナスカの方へ向う。
「あなた、私のヒョヒョに変な事、教えていないでしょうね」
 ナスカは念を押すように言う。
「んな事ねーよ。今日は姿の消し方を教えてやっただけだ」
 クロは不機嫌そうに反論する。かぐらのパートナーのシロとクロは月の妖精だが、魔女のお供の妖精としては深雪やナスカの妖精の何倍も先輩になる。そこで、深雪達の妖精の教育係を教習所の教官マジョサリィに依頼されていたのだ。
「先日はシロさんが変身の仕方を教えてくれましたね」
 深雪が嬉しそうに言うと、彼女のパートナーのヒュヒュが得意そうに深雪の姿に変身する。妖精はパートナー魔女の姿に変身する事が出来るのだ。
「さすがにシロさんの講習は完璧ですわね」
 ヒュヒュの変身した姿を見たナスカが言う。それはまるでクロと比較する様に。
「あいつは、それだけがとりえだからな」
 クロはムッとして言い捨てる。
「クロさんとシロさんはかぐらちゃんの姿に変身できるんですか?」
 ふと、思った疑問に深雪は尋ねてみる。
「そりゃ、ねーよ。俺ら男だからな。変身しても男さ」
「して見せなさいよ。どんなブ男か見てみたいですわ」
 ナスカが茶化す様に言う。
「すっげー美少年になるが、安々と見せてやらんわ」
「ふん、どうかしらね」
 クロとナスカが口論になりそうで、深雪はハラハラしながら、二人の話題を逸らさせようと口を挟む。
「そう言えば、かぐらちゃんとシロさんはどうしたのかなって?」
 夕食の時間なのに食堂に姿を見せない二人の事を思い出したのだ。
「明日の7級試験に備えて二人とも、もう寝てるぜ」
 クロは呆れて言う。
「寝て、どうにかなるようなものじゃ無いでしょうが」
 ナスカは嫌味っぽく言う。
「お前等は明日、6級試験だろ。せいぜい頑張れよ」
「あなたのご主人じゃあるまいし、心配していただく事はありませんわ」
 ナスカは明らかにかぐらを見下した様な態度で答える。クロはそれに微かに眉をひそめる。
「一つ、忠告しておく。夜のかぐらにつっかかるなよ」
 クロは意味深に告げて、食堂を出て行ってしまった。ナスカと深雪は顔を見合わせて、不思議そうにしていた。

「まったく……まぁ、ああ言うキャラは月でたくさん居たからなぁ…間に合ってるっての」
 通路でクロはヤレヤレという風に呟いた。

***

 翌日、ナスカと深雪の6級試験とかぐらの7級試験が行われていた。
「姫、落ち着いて行けば大丈夫。姫は出来るんですから」
 シロが試験前のかぐらに声をかける。昨晩、早く寝たおかげで、スッキリ気分のかぐらは自信ありげに頷いた。
 これから始まる7級試験は箒を使ったオリエンテーリング。試験官のモタから地図を渡されたかぐらは一つ目のチェックポイントを目指し箒に魔力を込める。
「かぐら、行きマース」
 スッキリ気合十分のかぐらの乗った箒が飛び上がる。しかし、スッキリが悪いのか気合がありすぎなのか、かぐらの箒は初速から物凄いスピードで飛び出していく。
「大丈夫かよ、あれ」
「たぶん……な」
 クロとシロが顔を見合わせて不安そうに言い合っていると…。
「あ〜ら、かぐらちゃんはぁ〜今日も〜元気ねぇ〜」
 モタモタが嬉しそうに言う。こうして、かぐらがスタートした後、今度は6級試験の説明が始まった。
「6級試験は、自力で魔法玉を手に入れる事が出来たら合格ぅ〜。」
「試験中は今持っている魔法玉は預かります〜」
 モタとモタモタのお馴染みの口調で試験の説明が行われる。二人は持参していた魔法玉を試験官に預け、魔法玉を得るために、各々、思う方へ飛んで行った。

「うっわーーっ」
 未だに箒を操れないかぐら、箒は常時超高速モードで突っ走る。そんなかぐらは一つ目の星型のチェックポイントを突き抜け、偶然にも通過の証のリングを付けていた。二つ目のポイントでも箒は止まらず、なんとかリングだけ取って、通過する。最後のポイントの二重丸の建物も壁をぶち破り、円形のロウソクに火を灯した。そんなこんなで、偶然が重なったのか、ほんの数分で、全てをクリアしてかぐらは戻ってきた。しかしかぐら本人は目を回して箒にしがみ付いているだけだった。
「凄いわ〜、このタイムぅ、新記録よ〜」
 ストップウォッチの表示を見たモタが嬉しそうに言うと、モタモタも鐘を鳴らしながら嬉しそうにかぐらに告げる。 「ほんとだぁ〜、じゃあ、お祝いに飛び級にしちゃおうかな〜」
 こうして、かぐらは飛び級で6級合格が決定した。
「姫、やりましたぞ」
「ま、ラッキーも実力だな」
 シロとクロがかぐらに声をかける。しかしかぐらは未だ目を回してフラフラしていた。

 しばらくして、王宮でバイトしたナスカと、魔女問屋でバイトしてきた深雪が、それぞれ魔法玉を手にして戻ってきた。スタート地点の試験屋台前ではかぐらがクロ達に胴上げされている。
「何してますの?」
 ナスカは訝しげにそれを見て呟く。隣の深雪は目をキラキラさせて言う。
「きっと、かぐらちゃんがやったんですよ」
 二人が戻ってきた事に気がついたモタモタが鐘を鳴らしながら言う。
「三人とも、6級合格よ〜、それぞれ一番大事な楽器を持って来てぇ〜」
「三人ってどういう事」
 ナスカは信じられない風にかぐらを見つめる。胴上げから降ろされたかぐらは照れくさそうにしている。それを見て事情を飲み込めたナスカは試験官に抗議する様に問う。
「かぐらが、飛び級なんて…何かの間違いじゃ」
「かぐらちゃん、凄い、次から一緒に試験受けられるね」
 納得出来ないナスカに対し、深雪は自分のことの様に喜んでくれる。ナスカは試験官の二人を猛烈に睨んでいる。
「でも〜、決めちゃったしぃ〜、私たちの試験官の判断は絶対なのよ〜」
 そんなナスカの視線もなんのその、モタモタはマイペースに強情な所を見せる。これ以上抗議しても無駄と思ったナスカはふてくされながら帰って行った。ナスカはポロンで魔法を使うわけでないので楽器は必要ないのだ。