おジャ魔女かぐら
第5話「吹雪と魔女」
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 魔女達が暮す不思議な世界――魔女界。そこの魔女見習い教習所で合宿し魔女を目指す月からやってきた少女がいた。その名は月影かぐら。月に伝わるかぐや姫の伝説を夢見て、人間の世界に行くのに必要となるであろう魔女の力を手に入れる為に、ここで修行を短期集中的に行っていた。
 しかし現在は、同じ教習生と夜に教習所を抜け出し魔法勝負を行ったペナルティで一週間の魔法使用禁止とトイレ掃除という処分を受けている最中なのだ。

***

 今日でトイレ掃除の罰も4日目。2日間で教習所内のトイレをピカピカにしてしまったかぐら達は、三日目から教習所の外の施設のトイレ掃除も請け負う様になっていた。そして今日は広大な魔女問屋のトイレを掃除していた。
「よっし、終了!」
 金髪に鋭い目をした少女が満足げに言う。彼女はナスカという魔女の少女。本来、教習を受ける必要は無いのだが、他の魔女より早く一人前になりたいと飛び級扱いで教習所に来ている。先日、かぐらと無許可の魔法勝負を行った相手だ。
「えっと、次の場所は…」
 氷の様な髪と雪の様な肌を持つ雪魔女の雹深雪が地図を広げながら言う。かぐら達の対決を止める事が出来ず連帯責任との事で一緒に罰を受けていた。
「じゃ、次へゴー!」
 かぐらが嬉しそうに言いつつ、ナスカの箒の後ろに乗せてもらう。
「お手数おかけします」
「黙ってしっかりつかまってて」
 ナスカはそう言うと箒を飛ばす。かぐらは箒を上手く扱えないのだ。ここは箒が無いと移動もままならない広大な魔女問屋。かぐらはナスカの箒に乗せてもらうしか無かった。以前のプライドの塊だったナスカなら、決して乗せたりはしかなっただろうに…と、深雪は思って、ついつい微笑んで二人の後を追いかける。

 次のトイレを発見した三人は、さっそく掃除に取り掛かる。既に慣れた手付きと言う感じでテキパキとそれぞれの分担をこなして行く。ナスカが洗剤と水を撒いて、かぐらがデッキブラシで床を磨いていく。深雪は束子付きの棒で細かい所を擦っていく。次第にキラキラ輝くトイレに三人は思わず微笑んでしまう。
「ずいぶんとハマってるみたいね」
 トイレの入り口から声がかけられる。そこには苦笑いを見せる三人の教官、マジョサリィの姿があった。
「私はこれをチームワークを鍛える修行だと思っていますから」
 ナスカは無感情を装ってマジョサリィに答える。
「あなた達の仕事、とても好評なのよ。あと数日だからがんばってね。それから差し入れよ」
 マジョサリィはお弁当を差し出して言う。評判が良いという事、そしてお昼ご飯にかぐらとナスカは思わずニッコリしてしまう。
「あっ…それから、深雪に故郷から手紙が来ていたわ」
 マジョサリィは深雪に手紙を渡した。

 魔女問屋の建物の外。そこに広がる野原にレジャーシートを広げ、マジョサリィは重箱に詰めた料理を広げていく。
「これって先生が作ったのっ」
 その豪華なお弁当にかぐらは驚いて尋ねる。マジョサリィは少し照れている。
「さ、早く食べて。午後の内に全部掃除出来なくなるわよ」
 マジョサリィはそう言って料理を勧める。問屋魔女のトイレはまだまだ無数にあるのだ。

***

 食事が終わり、午後のお勤めが始まる。
「何かね。この罰、これはこれで良かったのかも…って思うんだ」
 デッキブラシを手にかぐらは照れながら呟く。
「まったく…トイレ掃除が得意な魔女とかこれから言われ続けるかもしれないというのに…」
 ナスカは本当は照れ隠しなのだが、大袈裟に嫌そうな素振りで愚痴る。それを真に受けたかぐらは…。
「そ…それは困るっ」
 と言いながら体をクネクネさせる。ナスカはそんなかぐらに呆れた眼差しを送りつつ、さっきから静かな深雪を心配そうに見つける。
「深雪さん…どうしましたの?」
 深雪は俯いたまま、小さく震える声で答える。
「手紙……母が病気みたいで…」
「えっ」
 かぐらは驚いて深雪に駆け寄ってきて言う。
「すぐに行かなきゃ」
 行きたいのは山々なのだが…という感じに困った深雪が首を振る。
「かぐらさんの言う通りですわ。あなたが行ってあげないと大変な事になるんでしょ。だから手紙を…」
 ナスカが深雪を説得するように告げる。深雪は迷いながら呟く。
「でも…」
「話せば、外出の許可がおりると思いますわ」
 ナスカが念を押すように告げる。
「母の事、心配なんだけど……行くと、もう一緒に修行出来ないのが…」
 深雪は言い難そうに告白する。故郷に戻った分だけ修行のペースがかぐら達とずれてしまうのを気にしているのだ。
「そ、それは…」
 かぐらも悲しそうに呟く。ナスカはそんな事かと呆れて言う。
「私はともかく、かぐらさんはあと何度か落ちますから、すぐに追いつけますわ」
「ああっ、ナスカちゃん酷いっ」
 かぐらはブスっとしてナスカに詰め寄った。それに深雪も微笑んでしまう。
「さ、だから深雪さん、早く」
 ナスカは深雪を急かすように言う。深雪は二人の想いを感じて頷いて掃除道具を置いてトイレを出て行く。
「なるべく、早く帰ってくるから」
 そう言って深雪はマジョサリィの許可を得る為に教習所へ戻って行った。ナスカと二人きりになったトイレでかぐらが尋ねる。
「ねぇ、さっき言ってた大変な事って、許可って?」
 かぐらは一人、さっきから疑問に思っていた事を尋ねた。
「あなた…何も知りませんのね。契約書に書いてあったでしょ。教習中の外出には許可に要りますのよ。それから、深雪さんの故郷白雪界では、地域の天候を大人の雪魔女が操作していますの。その雪魔女が病気になれば、その地方一体は大荒れの吹雪になり、深刻な被害が出ます。白雪界には雪魔女だけでなく小人がたくさん住んでいますけど、病気の雪魔女の周辺は一段と吹雪が酷く雪魔女を看病できるのは雪の影響を受けない雪魔女だけという訳ですわ」
「それなら許可くれそうだね。…って、何でナスカちゃん…そんなに詳しいの」
 ナスカの説明にかぐらはポカンと驚いている。
「この謹慎中にちょっと調べましたのよ。あなた方の事。これもチームワークを高める為ですわ」
 ナスカはさらりと言う。かぐらはちょっと感動してナスカを見つめてしまう。
「ナスカちゃん」