おジャ魔女かぐら
第6話「狙われた魔女」
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 見渡す限りの木々。まさに樹海という言葉がうってつけな景色が広がる。しかし木々の色は様々で一言では言い表せない不思議さを醸し出していた。それはそこが魔法を使う者達の世界であるとすれば納得できしていただけるだろうか。その樹海の中を銀色の魔女見習い服の少女が駆け抜けていく。表情は必死だ。二本束ねた長い尻尾の様な青い髪が特徴的な彼女は月影かぐら。月の魔女界からこちら地上の魔女界に魔女修行に来ている。
「はぁはぁはぁ……」
 荒い息をしつつ、かぐらは後ろを確認する。物凄いスピードで人間の体型をしたウサギが追いかけてくる。
「もう追いついてきた〜」
 かぐらは泣きそうな声でそう言うと、咄嗟に今走っている道から側の藪へと飛び込んだ。木の枝や葉っぱがかぐらの肌に細かいかすり傷を描くが、気にしていられない。追っ手はすぐ側まで迫っているのだ。
「ピークレシェンド ププルナトゥライト 分身っ!」
 かぐらは形振り構わず胸の魔女見習いタップから取り出したクルールポロンで魔法を唱えた。
“ボンッ”
 煙が噴出して、かぐらの姿が二つになる。そしてすぐさま別々の方へ駆けて行く。それに気づいたウサギは、一瞬迷った後に一方のかぐらを全力で追いかけて行った。
「あっち行ってくれたぁ」
 疲れた声でかぐらはそう言うと、近くの木の根元に座り込んでしまう。こちらが本物でウサギが追いかけて行ったのは魔法で作った偽者なのだ。
「絶対に…捕まる訳にはいかないんだっ」
 かぐらは何かを決意する様に強く言う。しばらくすると、けたたましい足音が近づいてくるのに気づく。
「もう戻ってきたっ」
 偽者に気づいたウサギが戻ってきたのだ。かぐらは立ち上がり、半泣きで走り始める。もう体力は限界に近かった。何故、彼女がこんな必死の鬼ごっこをしているのか……それを説明するには、この日の早朝へ時間を遡らなくてはならない。

***

 魔女見習い教習所に合宿し短期間に魔女の資格を得ようとしている魔女見習いの三人。かぐら、雪魔女の深雪、飛び級魔女のナスカは朝早くから試験屋台に訪れていた。今回の魔女見習い5級試験の集合時間がこの時間と告知されたからだ。
「ふぁぁ〜〜、いらっしゃぁ〜い」
「はぁぁ〜〜、久しぶりねぇ〜〜」
 試験官魔女のモタとモタモタがいつのもスロー口調で声をかけてくる。今日は欠伸が多く、さらに遅く感じる。ナスカが苦笑いしながら答える。
「やっと謹慎が解けたから」
「もうトイレ掃除はしないのぉ〜。ほぉぁ〜〜あんなに好評だったのにぃ」
 モタが勿体無さそうに言う。三人は規則違反の謹慎で2週間、魔女界のあっちこっちのトイレを掃除して回っていたのだ。そんな訳でちょっとした有名人になっていた。その状況にはかぐら達は苦笑いするしか無かった。
「二週間ぶりの試験〜はりきって行きましょう〜ふゎゎ〜」
「はりきるって…はりきり過ぎだよ、こんな時間からぁ」
 かぐらが早朝なのを不満そうにしていると、かぐらの姿を改めて見つめた試験官達は首を傾げる。
「かぐらちゃ〜ん、そ〜のぉ姿」
「えっ?」
 言われてかぐらは自分の手足を見つめる。いつもは銀色の魔女見習い服が今は黄金の輝きを放っているのに気づいた。すぐさま空を見上げると、その空にはまだ笑う満月が残っていた。
「あらあらぁ〜月魔女ぉ〜特有の現象だったのねぇ〜。そのウサ耳ぃ〜可愛いわよぉ〜」
 とモタに言われてかぐらは頭上のとんがり帽子のつばの部分から飛び出しているウサ耳を恥かしそうに押さえた。月魔女は月光を浴びる事で強大な魔力を得る事が出来る。中でも女王候補の魔女はその量が半端では無く、溢れ出した魔力が金色の光となって体をまとい、さらに月魔女の象徴であり、普段は変形させて隠している長い耳を露出させてしまうのだ。
「ウサッ!ウサウサウサーーッ!!」
 突然、興奮して顔を真っ赤にした人型の白いウサギがかぐらの前に飛び出して来て、かぐらに必死にウサウサ言い始める。しかし、かぐらには何を言っているのか解からない。かぐらの髪飾りから白と黒の光が飛び出して、かぐらを守るようにウサギとかぐらの間に割って入る。それはバレーボールくらいの球体にウサ耳と足の生えた様な生き物、月の兎型妖精なのだ。体の色と同じ名前でシロとクロ、かぐらのパートナー妖精であり、お目付け役でもあった。そのシロがかぐらを庇う様に言う。
「貴様、姫に何をする」
 クロはウサギを観察して言う。
「こいつ、魔法ウサギだな」
 魔女界に生息する魔法ウサギ族、月に住んでいる兎型妖精。それは同じウサギっぽい生き物だが、関係は無いみたいだ。
「ウサウサウサーーッ!!」
 ウサギは何かを必死に主張しようとしている。
「どうやらぁ〜かぐらちゃんの事が〜好きになったみたいねぇ〜」
 モタがウサギの言葉がわかるみたいにさらっと言う。このウサギ、実はモタ達のペットで、4級試験のレースで魔女見習いと競争する事になる“勤勉なウサギ”という。

■挿絵[240×240(20KB)][120×120(6KB)]


「えっ…私の事っ」
 かぐらは思わず真っ赤になってしまう。シロは警戒し、クロは呆れている。
 気を取り直してモタモタが試験の説明を始める。
「今回の5級試験はぁ〜、この勤勉なウサギ達と鬼ごっこしてぇ〜逃げ切れたらぁ〜ごぉ〜かくぅ〜」
「期間は〜日暮れまで。魔法は〜ポロンを使用する魔法しか使っては駄目ですぅ〜」
 モタが付け足す。かぐら達は必死に理解しようとしている。かぐらは尋ねる。
「ウサギ達って?」
「こ〜の子達よ〜」
 モタモタが言うと、さっきの白いウサギの他に同じ体型の茶色いウサギと黒いウサギが現れた。
「三対三と言う訳ですわね。でもポロン使用の魔法って…私は?」
 ナスカが問う。ナスカは魔女の子なのでポロン無しで魔法を使っている。ナスカが欲しいのは資格だけなのだ。モタが答える。
「ナスカちゃんは、今まで通りでOKよぉ〜。かぐらちゃんは月の魔法、深雪ちゃんは雪の魔法を使っちゃ駄目だからね〜」
「かぐらさんの月魔法は前に見せてもらいましたが、深雪さんの雪魔法とは…」
 ナスカは首を傾げる。深雪はニコリと微笑んで説明する。
「雪や氷を自在に操る術、また、自らを氷や水に変えたりする事もできます」
「何気に凄いのね」
 ナスカは戸惑いながらも感心してしまう。