おジャ魔女かぐら
第9話「迷える魔女」
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 夜の魔女見習い教習所。食堂で二人の少女が夕食を食べていた。金髪に黒服の魔女の少女ナスカ、氷の様な肌と水色の魔女見習い服を着ている雹深雪の二人だ。
「……あの子がいないだけで、こんなに不自然に感じるなんて」
 肩をすぼめ、ナスカは信じられないように呟く。最近は三人でいる事が多かった事を嫌でも認めざるを得ないのだ。そんなナスカに対して微笑む深雪だが、すぐに複雑そうな顔をする。
「気分が悪いそうですが、今日の試験でやっぱり……」
 二人は顔を見合わせて頷いた。考えている事は同じようだ。同時に席を立ち食堂を出て行く。

“トントン”
 教習所の2階。教習生の宿舎となっているスペースのある部屋の前。ナスカが扉をノックする。そこは深雪とナスカが心配な人物の部屋だった。しばらくして扉が開く。
「何か?」
 出て来たのは二人の求める声では無かった。声は二人の足元から。白いウサギの様な妖精が長い耳で器用に扉を開いたのだ。彼はこの部屋の主である月影かぐらのパートナー妖精の一人であるシロだった。
「かぐらちゃんの様子を見に……」
 深雪が尋ねるとシロは怪訝そうに問い返してくる。
「ご一緒では無いのか?」
「えっ、それじゃ」
 もしやとナスカはシロを押し退けて部屋の中に目をやるが、そこにはかぐらの姿は無かった。
「かぐらさん、一体、何処へ」
 深雪は不安そうに呟く。シロも愕然としている。教習所には門限もあり、この時間に誰も行方を知らないと言うのはかなりの問題だった。
「姫を探さなければっ。何か心当りは?」
 必死そうに尋ねてくるシロに深雪は言い難そうに答える。
「今日、昼間の魔女見習い三級試験で……」
「試験で何かあったのですかっ」
 問い詰めてくるシロにナスカと深雪は昼間の出来事を話し始めた。

***

 深雪とナスカは3つ目の扉を抜けた所で、試験官の合格を表すベルを聞いた。二人はすぐさま、試験官が手にしている水晶玉に映っている試験中の仲間……かぐらの様子を伺った。かぐらは未だ一つ目の扉を抜けた所だった。これは彼女達の魔女見習い三級試験の様子。試験内容はお馴染みの“三つの扉と試練”という試験だった。その名の通り、扉で繋がる3つの世界でそれぞれの試練をクリアして試験官の元に時間内に戻ってくる事が出来れば合格なのだ。
「相変わらず不器用ね。まだこんな所に居ますわ」
 ナスカは悪口を言うが、本当はかぐらを心配しているのだ。
「まだ時間はあります。かぐらちゃんなら大丈夫だよ」
 深雪は信じて待つようだ。その頃、試験官は別の魔女見習いの進級試験を始めようとしていた。そこには、薄い黄色の見習服にオレンジのロングヘアーを二つに束ねた元気な少女が緊張した面持ちで試験官の次の言葉を待っていた。
「え〜っと、ウララちゃんのぉ〜、9級試験始めるわよ〜」
 モタがそう言って、試験のテキストをめくりだす。
「出して〜っ、大きなタイヤキ、尻尾まであんたっぷりね」
「はいっ」
 緊張に少し裏返った声で返事したウララがステッキ状のポロンを構え、魔法を奏でる。
「プワリンチュアリン ハレハレグゥ 尻尾まであんたっぷりの大きなタイヤキ出て来て!」
 メロディが鳴り終る。しかし試験官の前には何も現れない。かぐらの試験を水晶玉で見ていた深雪とナスカが驚きの声をあげた。
「ああーっ」

 かぐらは2つ目の試練をクリアし扉を抜け、3つ目の世界に来ていた。そこには、既に目の前に二つの扉が待ち構えていた。このどちらかが正解の扉なのだ。それを選ぶのが最後の試練。かぐらが迷って立ち尽くしていると、背後に巨大なタイヤキが勢い良く出現、かぐらを不正解の扉の方に押し飛ばしてしまった。
「あんが多いだけに破壊力抜群ね」
 水晶玉を覗きながらナスカが冷静に分析した。それを見ていたモタモタが残念そうに言う。
「あらあら〜、ここに出せなかったので、残念ながらウララちゃん不合格ぅ〜」
「が〜ん」
 ウララはガックリ肩を落とした。この時、試験屋台の横に立てかけてあったウララの箒が微かに“にっ”と笑った事に気が付いた者はいなかった。
「あの、かぐらちゃんはどうなるんですか?」
 深雪が心配そうにモタモタに問いかける。
「あの、扉が閉まる前にあの不正解の世界から抜け出してぇ、正解の扉をくぐれれば合格なんだけどぉ」
 半分閉まりかけの扉を指差して答えるモタモタ。ナスカと深雪は水晶玉に映るかぐらを見つめなおした。

 かぐらは真っ暗な世界にいた。キョロキョロと大袈裟に首を振り、状況を確認しようとする。
「ここは……えっ」
 かぐらは驚きの声を漏らす。少し離れた空間に少女の姿が出現したのだ。しかもそれはかぐらの良く知っている少女。パルナ――月魔女界の第7女王候補でかぐらの親友。そのパルナが悲しそうな顔をしていた。
「パルナちゃんっ」
 かぐらは叫びながらパルナに駆け寄るのだが、見えない壁に阻まれ前に進まない。しかも声すらパルナには届かないのだ。
「どうしたの、何があったの!パルナちゃん!」
 かぐらは壁を叩くが、これも伝わらない。壁の向こう側ではパルナのもとに新たに3人の少女が現れ、取り囲む。そして何やら話し出した。当然、会話はかぐらの元には届かない。
「……ミィズ、それにマリアさんとホルプちゃんがどうして一緒に?」
 かぐらは困惑していた。ミィズとホルプと呼ばれた少女は、お互いを牽制しあいながらパルナを誘っているようだ。マリアはホルプの後からパルナを見つめている。二人の話にパルナは頑なに首を横に振って拒絶する。進まない話にマリアとミィズの動作が荒っぽくなって行く。
「何を話しているの……」
 いてもたってもいられず、かぐらはクルールポロンを出して、魔法を使おうとした。