おジャ魔女かぐら
第10話「海賊魔女」
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 オーロラがかかった様な少し不思議な宇宙。そこは大きさの概念が麻痺してしまいそうな広大な空間。そこで強靭な物体同士が激しくぶつかり合う様な音と火花が幾度と無く発生し闇に消えてを繰り返していた。その宙域には、闇に見え隠れしながら頭部が金槌状のシュモクザメと先端に鋸を持つノコギリザメ様な物が激しくぶつかり合っていた。その息をつく暇も無いバトルを遠く離れた星の桑畑から望遠鏡で観戦している男が居た。
「凄い……」
 男はそう呟き、手元の壷をコンコンと叩いた。壷からは赤い蛇が顔を出す。
「レッドスネーク、見てごらん、魔法宇宙の片隅で物凄いバトルが繰り広げられているよ」
 興奮気味に話す男。でも蛇はシャーシャーと舌を出し、別の方向を見つめだす。そちらに何かあるかのように……。
「ん、何か感じたのか?」
 男と蛇は長い付き合いだった。お互いを信頼し合っている。蛇の感じた物を信じるように男は望遠鏡を蛇の見ている方へ向け、調整する。
「ん、何だ、あれは……」
 男は信じられ無いとばかりに立ち上がる。そしてある種の義務感に駆られて、望遠鏡と壷を抱えて走り出した。

***

 月魔女界の次期女王候補の一人、月影かぐらが地上の魔女界にやって来て、魔女見習い教習所入所し、魔女の子ナスカ、雪娘の雹・深雪(ヒョウ・ミユキ)と出会い魔女修行を始めてから43日目。魔女の資格を得る為の魔女見習い試験もいよいよ佳境の2級試験を迎えていた。
 場所は広大な草原を横断する一本道の途中にポツンと建っているピアノを模した小屋の前。試験を管理する試験官は、かぐら達にとってはもうお馴染みの名コンビ、モタとモタモタという魔女。
「それじゃぁ〜行くわよぉ〜」
「そぉ〜れっ!」
 モタとモタモタがそれぞれ水晶玉付きのステッキを振り、カチンと金属音を響かせクロスさせる。こうして魔法が発動し、かぐら達は光に包まれた。光が収まるとかぐら達は見た事の無い程に星が間近に見える世界に立っていた。
「ここはどこですか?」
 深雪が回りを見渡して試験官に尋ねた。
「ここはぁ〜……え〜っと」
「あれ、あれなのよね〜……ほらっ」
 名称が思い出せない試験官二人のじれったいやり取りが続く。それにイライラを募らせたナスカが堪らず口を挟む。
「星の世界でしょ、それで私達、ここで何をすればよろしいんですの!」
「ナスカちゃんすごい物知りぃ」
 感心するかぐらにナスカは冷たく言う。
「これくらい常識ですわ」
「そうそう“ほしのせかい”なのよぉ〜、ありがとね」
「それじゃ、このカードを一枚引いてねぇ」
 モタモタが魔女服のポケットから数枚のカードを出してかぐら達に引かせようとする。かぐら達は首を傾げながらカードを一枚ずつ手にした。
「カニですわ」
「双子の天使」
「蛇と壺とオジサンが描いてあるよ〜」
 それぞれ引いたカードを試験官に見せた。モタがそれをマジマジと見渡して説明を始める。
「ナスカちゃんは蟹座、深雪ちゃんは双子座、かぐらちゃんはレアな蛇使い座ね」
「2級試験は〜、この広い、星の世界でぇ〜、そのカードの星座を時間内に探してきてね〜」
 続いてモタモタが試験内容を説明した。
「星座を探す?」
 かぐらは再び首を傾げた。そんなかぐらを無視して、モタモタが“パンパン”と手を叩き、その合図で試験が開始される。
「この世界には星座を象徴する者がいますよ。それを連れて帰って来れば合格ですわ」
「とにかく、探しに行こう」
 ナスカがかぐらに説明してくれた。そして深雪に促され、かぐらは箒を取り出した。かぐらは箒を上手く扱う事が出来なかった。それはかぐらの高い潜在魔力が原因ではないかとナスカは分析し、魔法研究所はかぐらの魔力に合わせた特別な箒を作ってくれた。
「それじゃ、行きますわよ」
「がんばろうね」
 そう言って、ナスカと深雪は各自の箒で飛び立っていく。箒に跨りそれを見送ったかぐらは自分の箒に、新品の、まだ使ったことの無い箒に、期待を込めて魔力を込める。
「かぐら、浮上っ」
 わざとらしく叫んで、両足で大地を蹴るとそのままかぐらの体が宙を舞う。今まで幾度と無く箒を暴走させてきたかぐらは、この静かな離陸に思わずニッと表情を弛め、思わずガッツポーズをとってしまう。しかし……。
「落ちた」
「落ちたわね」
 見ていた試験官が各々囁いた。数メートル浮上した所で急に浮力を失い、そのまま真っ逆さまに墜落してしまったのだ。立ち込める砂煙の中、起き上がったかぐらは悲しそうに呟く。
「この箒もダメなのかな〜」
 こうして、かぐらは仕方なく歩いて蛇使い座を探す事にし、トボトボとアテも無く歩き始めた。

***

 星の世界は、数々の星に纏わる伝説で語られる様な者や星座達の世界。そこは魔女界以上に広大だった。そして星の世界の周りには星の海と呼ばれる海原が果てしなく広がっているのだ。そこは言い換えると虹色の宇宙。魔法をおび、空気の存在する宇宙空間に良く似た領域となっている。そのずっと奥、深遠には漆黒の闇が広がり、人間界で広く認知されている通常の宇宙へと繋がっているとされていた。月はその通常宇宙から人間界、そして星の世界、魔女界、魔法使い界をはじめとする魔法界に微笑みかけていた。

 星の世界を適当に散策するかぐらは桑畑の端で寝ているライオンを見つけた。
「何で、ライオンがこんな所に!」
 かぐらはビビって、バレないように立ち去ろうとしたが、かぐらの気配に気付いて目を覚ましたライオンは、眠たそうな瞳でかぐらを見つめる。
「お嬢さん、何日生まれ?」
 ライオンは起き上がりかぐらに近づきながら渋い声で尋ねてきた。
「くっ…9月15日生れですけど、何か」
「あなたは獅子座ですね!ちょっと待って下さいね」
 かぐらの誕生日を聞いたライオンは、何かに目覚めたように嬉しそうに鞄をあさり始めた。かぐらは言い難そうに訂正する。
「あの、私、乙女座ですが……」
「13星座占いでは、あなたは獅子座なのです!私は獅子座、あなたの運勢を…」
 獅子座と名乗ったライオンはかぐらの運勢を語りたくてうずうずし、かぐらの返事も待たずにせっかちに語り始めた。