おジャ魔女かぐら
第11話「休日の魔女」
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「今日はここまで。各自イメージトレーニングをしておくように。それと明日は1級試験に備え休みとします。各自準備を怠らないように」
 魔女見習い教習所教官マジョサリィのこの言葉で、ここでの最後の教習が幕を閉じた。
「まさか、最終試験前日に休みが貰えるなんて思いませんでしたわ」
 部屋に戻る途中の廊下で嬉しそうにそう呟いたのは若手魔女のナスカだった。
「明日どうしますか?」
 雪魔女の子供、深雪が尋ねてくる。それに月魔女の月影かぐらは少し首を捻って考える素振りを見せてからポツンと答える。
「寝るとか」
 期待していた深雪とナスカに対し、かぐらの答えがあまりにも間抜けだったので、拍子抜けして深雪とナスカがずっこけてしまう。当然、かぐらの希望は即却下される。
「二人とも、ろくに魔女界を見ていないはずですわ、明日は私が魔女界を案内しますね。魔女になったら私達、別々になってしまいますし…」
 いつになく嬉しそうにナスカが提案する。
「ナスカさん、ありがとう」
「ナスカちゃん…」
 深雪とかぐらは感激してナスカの手をとる。こうして、1級試験の前日、かぐら達は魔女界で遊ぶ事になった。

***

 翌日、魔女界はよく晴れて、お出かけ日和。しかしかぐら達のお出かけは出発前に問題が発生していた。
「箒に乗れないですって!」
 ナスカが信じられないように叫んだ。
「でも、魔法研究所のかぐらちゃん専用カスタム箒が出来たって…」
 深雪の言葉にかぐらは首を横に振る。本人に自覚は無いが潜在魔力が一般の魔女より高いかぐらは箒を操ろうとすると箒を暴走させてしまうのだった。魔法研究所がかぐら用に調整した箒を送ってきたのだが、それでも駄目だったらしい。
「もはや、魔力の問題では無いのではありませんこと?……それより、歩いてではスケジュールが狂いますわ!」
 薄っすらと目の下にクマの見えるナスカ。どうやら遅くまで今日のスケジュールを練ってくれていたみたいだ。それが初っ端から狂うのでは、ナスカもやってられない。そこにかぐらのパートナー妖精クロがやってきた。
「かぐら、箒がダメなら、これに乗れ!」
 クロは竹箒をかぐらに手渡す。
「相性の問題という事ですね」
 深雪が手を叩いて言う。
「…」
 かぐらは渋々、竹箒を跨いで魔力を込めた。竹箒は垂直に上昇、そして上空で“パァンッ”と飛び散った。かぐらは竹の棒だけを手に落ちてきて、尻餅をつく。
「…箒がつくからダメか。ならこれだ!」
 クロはモップをかぐらに渡した。
「…」
 かぐらは渋々、モップを跨いで魔力を込めた。今度は上昇出来ず、モップはかぐらを乗せたままその場で回転を始め“ボフゥ!!”と飛び散った。かぐらは目を回して倒れた。クロは呆れつつ、次を用意する。
「…重たかったのだろうか?しかたない、次はこれだ!」
 それは、トイレから持って来たデッキブラシだった。かぐらの脳裏に地獄のトイレ掃除の日々が甦る。すっかり自信を無くしていたかぐらは、泣く泣くデッキブラシを跨いで、魔力を込めた。デッキブラシがゆっくり浮上する。

 箒で飛ぶナスカと深雪の後をデッキブラシに乗ったかぐらが追いかけていた。
「でも、デッキブラシにしか乗れない魔女だなんて、レアですわ」
「かぐらちゃんらしいけどね」
 ナスカと深雪は楽しそうだった。かぐらは複雑な思いで、デッキブラシを操っていた。
「わたしが一番上手にデッキブラシを扱えるんだ……って事?」
 冗談交じりに呟いてかぐらは溜息をついてしまう。3人が向かっていたのは魔女ガエル村だった。元老院魔女のマジョリードが作った村で、魔女ガエルの呪いにより人間に正体を見破られ、元の姿に戻れなくなった魔女達が暮らす場所だった。マジョリードの趣味らしく村は和風にまとめられている。そして今日はお祭りの日。賑やかな音楽、たくさんの提灯、そしてズラリと並んだ屋台。かぐらは村の入り口で目をキラキラさせる。
「さ、行きますよ」
 ナスカが先陣を切って入って行く。

「魔女ガエルういろうおいしいね」
 かぐらは屋台で買った村の名物を幸せそうに頬張る。さらにたこ焼きやわたがし、リンゴ飴等を抱えている。
「かぐらさん、食べてばかりではありませんか」
 ナスカが呆れて言う。しかし。
「ナスカさんはゲームばかり、景品がこんなに」
 ナスカがいろいろなゲーム屋台に参加し取得した景品を抱える深雪が言う。
「そ…そんな事より、はやく、メインイベントが始まりますわ!」
 ナスカがかぐらと深雪を引っ張って、村の中央の広場に作られた特設ステージの観覧席に向う。しばらくしてステージに魔女見習いが出てきた。
「…いきなりですが、マジョハートやります」
 ステージに立つ魔女見習いは後を向いた。そして振り返って…。
「バカモ〜〜ンッ!」
 大声で叫んだ。それが魔女医者のマジョハートにそっくりだったもので魔女ガエル達は大うけ。
「ありがとうございます、じゃ、次はマジョドン!」
 また後を向いて、振り返り、
「バカモ〜〜ンッ!……ってまたそれかい!」
 と自分で突っ込みを入れて、魔女ガエル達の爆笑を得る。
「これ以上やると、本物が出そうなので、お待たせしました、如月みるとオンステージ!始まるよ♪」
 こうして、魔女界のアイドル魔女見習い如月みるとのステージが始まった。

 持ち歌、リクエスト曲と4曲披露したみるとは、ペコリとお辞儀する。
「今日のステージはこれでお終いです。これから2級魔女見習い試験を受けなきゃいけないんだ。みんな応援してね」
 と言いながら箒に跨るみるとだったが、会場からはアンコールが湧き上がる。
「みんな、ありがと、みるとぉ…嬉しいよ」
 みるとはそう言って箒で飛び上がる。同時にみるとの歌の前奏がスピーカーから流れ始める。みるとは会場上空を旋回しながら歌を歌い始める。そしてワンコーラス歌い終えた所で…。
「それじゃ、電波の届くところまで歌うからね」
 と言って、西の方へ飛んで行ってしまう。それでも歌声はスピーカーから聞こえ続ける。もう少しでツーコーラス歌い終わるという辺りでみるとの声はフェードアウトしていく。スピーカーとマイクを繋ぐ無線の範囲外に出たのだろう。
「そこまでやるのか……同じ魔女見習いよねぇ」
 ナスカはみるとのパフォーマンスに圧倒されていた。