おジャ魔女かぐら
第12話「懐かしい魔女」
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 魔女界の魔女見習い教習所。魔女になる為の修行と試験を合宿形式で約一ヶ月でこなす施設である。その丸いドーナツ状の建物の二階が教習生の宿舎となっており、その一室に月魔女界の女王候補の一人、月影かぐらが生活していた。かぐらは月と人間界に伝わる「竹取物語」に憧れ、人間界に行きを希望していた。かぐら達、月魔女にとって月と違い自由に魔法の使えない人間界に行く為、こちらの魔女の資格が必要だったのだ。
 一ヶ月の教習所生活の筈だったのが、いろいろ予定外の事があり、その教習日数は大幅にオーバーしていた。しかし、それ故に出来た“絆”もあり、それは時間には代えがたいものがあった。そんなかぐらも明日、いよいよ最後の試験を迎えようとしていた。しかし……。
「シロ……寝た?」
 灯りを消した部屋で、かぐらが控えめに尋ねる。相手はパートナー妖精のシロ。月妖精の彼は兎に似た姿をしている。色はもちろん白。そして役目はパートナーであり、補佐役であり、お目付け役であり、教育係であり、姫に遣える家来的な役割も果たしていた。そんなシロからの返事は無かった。本当は起きているのだが、わざと無言でいるのだ。かぐらは明日の大事な試験に備えて寝ておかなければならないのだ。その為の行動だった。
「クロは起きてるよね」
「ああ」
 今度はすぐに返事が来る。クロはシロと同じで月妖精で、かぐらのパートナーであり、補佐役であり、ボディガードであり、悪友でもあるという感じだった。お堅い印象のシロと違い、かなり軽く、かぐらの味方なのだが、かぐらと一緒にシロに怒られる事もしばしばである。
「明日の試験、人間界でやるんだって……黒魔女になってから人間界に行くって約束したけど、試験なら仕方ないよね」
 かぐらは言い訳する様に呟いた。もちろん、そんな言い訳は必要ない事はシロもクロも分かっていた。黒魔女とは、月の魔女を白魔女とした時の魔女界の魔女の呼び方だった。クロは茶化す様に言う。
「お前、人間界に行けるっていうんで、興奮して眠れねぇんだろ」
「うん、心の準備が……」
 かぐらはベットの中で胸を押さえながら答えた。
「何にしても試験で行くのですから、人間界を楽しむ余裕は無いと思ってください。それに試験に合格しないと、本当の意味で人間界に行くのが遠退くのですよ」
 シロが淡々と告げる。だから早く寝てくださいと言いたげだ。かぐらは告白するように話し始める。
「でもね……私、試験に合格したら月に帰るつもりなんだ。だから、その前に人間界を体験できるのが嬉しいんだ。だって、人間界に行けるのもっと後になると思っていたから」
「姫っ」
「かぐら、何もこんな時にっ」
 シロとクロは驚いて跳ね起きる。シロは確認するように慎重に問い質す。
「今、月がどの様な状況かご存知なのですか?」
「詳しくはわからない。でも良い状況でない事はわかるよ」
 かぐらはシロを真直ぐに見据えて答えた。
「たぶん、近い内に次期女王選が始まる。その開始の合図の時に月に居なければ女王候補の資格を失う。お前はどうしたいんだっ、かぐら」
 クロが尋ねる。その口調は激しさを押さえた感じだ。かぐらの選択如何で彼等の行動も変わってくるのだ。
「……2級試験の時に、パルナちゃんと会ったんだ。パルナちゃん、凄い酷い目にあってた。今の月はそれが平気で出来ちゃう世界なんだって実感した。私、何がしたくて何ができるかなんてわからないけど、そんな故郷は嫌だ。自分の故郷は守りたいんだ」
「それは戦うと受け取って良いのでしょうか」
 シロが確認する。
「ううん、たぶん違う。そうすると歴史の繰り返しだからね。私、魔女界に来て、成長したよね……ねっ、た…たぶん、ちょっとでも成長してると思うから、それをぶつけたいんだ。月の仲間達に」
「ふっ、相変わらず、めんどくせぇ事言ってるぜ」
 クロが呆れたように言う。でも、何故か嬉しそう。
「ごめん、いつもワガママで。だから、その時は二人との契約は……」
 かぐらの言葉をシロは遮って言う。
「我等の任務は変わりません。これからもずっと」
「お前のしたい事が俺のしたい事だからな」
 言ったクロは照れてしまう。
「二人とも、ありがとう」
 かぐらは思わず二人を抱き締めてしまう。クロは照れを隠すように問う。
「それより、月に帰る手段はあるのか? 扉は年一回しか通じないんだぞ。それもここに来る時に使ったし」
「それは心当りがあるから安心して」
 かぐらはそう言って、ニシシと笑う。シロは不安そうな視線を送りつつ、気持ちを切り替えてかぐらに告げる。
「まずは明日の試験に合格しないと始まりませんぞ。だから、もうお休みください」
「そーなんだよね。でも、目がさえちゃって、眠れないんだなぁ……だって明日、初めての人間界だよ〜」
 と、ここで話がループしそうになる。クロは呆れて言う。
「遠足前の子供かよ」
 まぁ、かぐらは子供には違いないが…。

***

 翌日、魔女見習い1級試験の日がやってきた。場所は人間界の虹宮という街。いつもの試験屋台に集合したかぐらと若手魔女ナスカ、雪魔女の雹深雪の三人。早速試験官コンビのモタ&モタモタの魔法で虹宮にやってきた訳だ。初めて自分の体で体感する人間界は、心の準備の暇も無く一瞬でやってきて、かぐらは目をパチクリさせていた。まだ気持ちが追いついて来ていないのだ。
 そこは何処かの家の庭の様な場所だった。青緑の魔女見習い服の少女と赤い大人の妖精が待っていた。この魔女見習いは“龍見ゆうき”とモタから紹介される。一緒に試験を受けるみたいだ。かぐらの隣でナスカはジッとゆうきが連れている赤い大人の妖精を見つめていた。妖精の方は何故かナスカとは目を合わせないようにしていた。一方、深雪は人間界の気温を肌で感じていた。季節は冬で、雪魔女の深雪にとってはちょうど活動しやすい気温であった事に微笑みを浮かべていた。そんな状況の中、モタモタが試験内容の説明を始める。
「じゃぁ〜、試験を始めていいかしら?…1級試験は〜、日暮れまでに、魔法を使って良い事をして、ありがとうって言ってもらえたら合格。我々は地域住民のお役に立てる魔女を目指すのよぉ〜」
 続いてモタが試験開始を告げる。
「それじゃ、試験開始ぃ〜」
 こうして、4人の魔女見習いはそれぞれ空に散っていった。