おジャ魔女かぐら
第13話「さよなら魔女教習所」
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 魔女見習い教習所。魔女の世界、魔女界に設置されたその施設は魔法界のいろいろな世界から魔女を目指してやってきた者が合宿形式で短気集中的に修行し魔女の資格を取ろうというものである。人間界にある合宿タイプの自動車教習所と同じと考えるとわかりやすいと思う。
 短期間であるが寝起きを共にした教習生は、たいてい深い絆で結ばれる。所謂、同じ釜の飯というやつである。また、教官を初めとする施設のスタッフとも同じであった。魔女見習い教習所では教習生がここでの修行を終え、魔女の資格を得、教習所を卒業する時に記念のパーティを開くのが恒例になっていた。そしてこの日は無事に魔女見習い修行を終えた月影かぐら達の卒業パーティが教習所の体育館で開かれていた。

「お肉がいっぱいぃ〜〜」
 かぐらが嬉しそうに声をあげる。テーブルには色とりどりのご馳走が並んでいて、バイキング形式の立食パーティでご自由にという風になっていた。かぐらはせっせと手にしたお皿にさいころ状に切られたステーキを積んでいく。
「お肉ばかりじゃなくてお魚もお食べなさい」
 同期の教習生マジョナスカがかぐらに言う。
「お魚は……」
 かぐらは言葉を濁していると、同じく同期の雹深雪もやってくる。
「そういえば、かぐらちゃん、食堂でもお魚の時はいつも残していたわね。苦手なの?」
「えっと……月には海が無かったから、お魚は良くわからないんだ」
 言い難そうに言うかぐら。かぐらは月の魔女界からやってきた魔女なのだ。
「私の世界じゃ、お魚は冷凍しか無かったから、生のお魚は初めてだったわ」
 という深雪は雪女の一族。雪魔女の世界からやってきている。
「なるほど、育った環境、文化の違い……そういうのってありますわね」
 ナスカは納得した様に言う。ナスカは飛び級で魔女を目指していたエリートなのだ。
「でも、かぐらちゃんのは食べず嫌いだよ」
「そうね。さぁ、こっちへいらっしゃい」
 と、深雪とナスカはかぐらを魚料理のプレートの方へ連れて行く。
「でも、苦手なんだよ、目がーぁ、目がぁ」
 取り乱すかぐらを問答無用で連行する二人。そして目的のプレートの前に辿り着く。そのプレートに盛り付けられた料理を見てかぐらは思わず言ってしまう。
「綺麗っ」
 それは魔女界の不思議な魚をお刺身にしたプレートだった。その色とりどりの宝石の様な輝きを放つお刺身にかぐらは見入っていた。とりわけピンク色の真珠の様な輝きのお刺身が気になるみたいだ。
「さぁ、食べてごらんなさい」
 ナスカに言われ、恐る恐るお箸を持つ手を伸ばすかぐら。そこに教官のマジョサリィが現れる。
「こんな所で何をしているの、ほら、みんなに挨拶していらっしゃい」
 と言って押し出される。お世話になった人達に挨拶回りして来いと言うわけだ。かぐらはピンク色のお刺身に後ろ髪引かれる思いで人だかりの方へ歩いて行く。

***

 パーティ会場の隅っこのテーブルではかぐらのパートナー妖精のクロがナスカの妖精ヒョヒョと深雪の妖精ヒュヒュと一緒にいた。クロは月の兎型妖精で、ヒュヒュとヒョヒョはテルテルボウズの様なスタイルが特徴の魔女界の妖精の子供だった。
「これで、お前等も一人前の妖精だ」
 手のように使っている長い耳には炭酸系の飲み物が入ったグラスがあり、それをがぶ飲みしながらクロが感慨深げに呟く。このクロと同じくかぐらのパートナー妖精のシロの二人はマジョサリィの依頼で生まれて間もないヒュヒュとヒョヒョの教育を担当していたのだ。妖精として基本や心構え、スキル等をこの一ヵ月半で教え込んだ、いわば教え子なのだ。
「ヒョヒョヒョ」
「ヒュヒュ〜」
 二人は感謝する様にクロを見つめる。
「妖精はな、魔女のサポーターで終る存在じゃねーんだ。妖精と魔女は対等なんだ。良いなそれを忘れるな」
「良い言葉だな。しかし、お前はもう少し立場をわきまえろ」
 そこにシロが現れる。シロは自由奔放なクロと違いしっかりした性格で、さらに説教が長いという特技も持っている。
「ヒョヒョ」
「ヒュッヒュゥ」
 ヒョヒョとヒュヒュはシロに頭を下げる。
「君達は優秀な妖精だったよ。もう何処へ出ても恥かしくは無い。胸を張って自分の使命を果たすんだ」
 というシロの言葉に感極まったのか、ヒョヒョとヒュヒュはシロに寄り添って泣き始める。
「まったく、シロは相変わらずお堅い事で」
 クロは呆れるが、少し感傷気味だ。ヒョヒョとヒュヒュはシロとクロと別れたくないのか、泣き続ける。シロは優しく告げる。
「私達はもう君達の教育係じゃないんだ。もう対等な存在なんだよ」
「それに出会いがあれば別れがあるのは当然だからな。ま、元気でやんなよ」
 クロはそう言って背中を向けた。シロもそれに黙って頷く。二人のこの態度の意味する所が理解出来ないヒョヒョとヒュヒュは首を傾げる。
「ま、だからよ、今日はトコトン付き合えよっ、お前等っ」
 クルっと振り返ったクロはニッと笑ってヒョヒョとヒュヒュを連れて料理の盛り付けられたテーブルの方へ飛んで行く。それを見送りながらシロは難しい顔をしていた。これから先の自分達の現実を案じる様に。

***

 かぐら達は会場でたこ焼を焼いてくれているタコ族の八太郎を見つけて話し掛ける。
「あの、この前は、屋台壊してすいませんでした。それとクロがいつも食べさせてもらって、お土産までくれて…いつも美味しく頂いていました。ありがとうございました」
「屋台の事はもういいんタコよ〜。それから改めて、かぐらちゃん魔女合格おめでとうタコ。かぐらちゃんウチのたこ焼を食べたから魔女になれたタコッ。そーだっ、魔女試験合格たこ焼を販売するタコォ〜」
「どんなドジっ娘でも、合格できるっていうのがウリですわね」
 ナスカが付け加えるとかぐらが心外そうに怒る。
「それって酷くないっ」
「まぁまぁ、丸っきり違うって訳でもないと思うから」
 深雪がかぐらをなだめる様に言うが、その言葉の意外な破壊力にかぐらがガックリと落ち込んでしまう。影を背負ったかぐらを引っぱってナスカが言う。
「さぁ、次へ行きますわよ」