おジャ魔女わかば
第29話「ドリルでGO!」
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『世界が赤に切り裂かれる時、必ず大自然の衣纏いし勇者現れる。金色の魔根はその身を勇者に捧げ、野望の力を解き放たん』
 僕の村に伝わる古い言い伝えだそうです。僕は仲間の中で一人だけ黒い体をしていたので、不吉だと言われ続けてきました。今、村は赤い軍隊に攻め込まれて大変な事になっています。村の者達は行き場の無い怒りを僕にぶつけてきます。ただ黒いというだけで…。
 僕は…村を追い出されました。行き場の無い僕は言い伝えを信じ、勇者を探す旅に出る事にしました。勇者を見つければきっと平和が戻り、村の者達が僕の事を認めてくれると信じて…だって、僕の居場所はあそこしか無いのだから。

***

 その日はオフの如月みるとは武生にある自宅のベットに横になって誰かと楽しそうに電話していた。みるとは魔女界でアイドル活動をしている魔女見習いだ。
「それにしてもご機嫌だね。どうしたの?」
『おおっ、わかるカ…さすがみるとネ。実は今日はこれからあの子達の収穫なのネ』
 受話器の向こうで嬉しそうな声がする。それはみるとの友人の魔女見習い・李蘇雲だった。蘇雲は薬屋の魔女の元で修行している。
「あ〜、あのマンドラゴラの〜」
『みるとっ、声が大きいヨ』
 蘇雲は、思い出したように声を出したみるとに慌てて言う。みるとは苦笑いして…。
「誰も聞いてないよ」
 みるとは電話先の見えない蘇雲の姿を宝くじが当たって手にした事の無い大金を手にしてしまいオドオドしている人のみたいな感じに想像していた。マンドラゴラは魔法植物で魔法界ではレアな薬草として高値で売買されている。実は蘇雲は数ヶ月前からマンドラゴラの畑を作って栽培をしていた。今日がそれの収穫日らしいのだ。
「何か、手伝いに行こうか、今日、オフだし」
『いらんヨ』
 蘇雲は即答する。そのニュアンスにガメツさを感じたみるとはまた苦笑いしてしまう。
『さぁ、ぼっこぼっこ引っこ抜いてやるヨ』
 蘇雲は嬉しそうに言う。すでに畑に来ているみたいだ。受話器から土を踏みしめる音が聞こえてくる。みるとは気がついたようにハッとする。
「そぉ、ちょっと待って、電話切るからっ」
 みるとは慌てて電話を切ろうとする。マンドラゴラは地面から引っこ抜いた時、物凄い悲鳴をあげ、それを聞いた者は死んでしまうと言われていた。みるとは使っていた魔法携帯電話ピロリンコールの終話ボタンを押そうとした時、受話スピーカーから不審が音と声が響いた。

■挿絵[240×240(20KB)][120×120(6KB)]

『お前等、何ネ、何するカ……ゴゴゴゴゴゴ…ザザ…ズズズズズ……ブッ……ツーツーツー』
「そぉ、そーーーぉ」
 みるとは慌てて携帯に向かって叫んでいた。回線は既に途切れていて、その後、何度ダイヤルしても繋がらない。蘇雲に何かあったとしか考えられず、みるとは呆然としていた。

***

 魔女界のとある巨大な森林を出てすぐの所にある蘇雲のマンドラゴラ畑。そこに魔女見習いが4人あつまっていた。白い魔女見習い服を着込んだみるとは懸命に周辺を調べている。今日が収穫日だと言っていた蘇雲の畑にはマンドラゴラは一本も無かった。
「マンドラゴラは高級品、強盗に遭って、一緒に連れて行かれた可能性がありますわね」
 みるとに呼ばれてやってきた黄緑色のお嬢様魔女見習いの名古屋さくらが推論を展開する。みるとはそれに頷く。残りの二人の魔女見習いもみるとが電話で呼びかけ来てもらったのだ。
「しかし、不思議な事に畑は掘り返された跡が無い。どうやってマンドラゴラを持っていったのか…」
 黒い魔女見習い服に長い黒髪のクールな少女、日浦あずさが呟いた。畑はとても綺麗な状態なのだ。それこそ、マンドラゴラを引っこ抜いた形跡さえ無い。しかし普通、地上に出ているはずのマンドラゴラの葉っぱ部分は一本も見えないのだ。緑色の魔女見習い服にツインテールの少女、桂木わかばはみんなの背後でしゃがんでいて、何かを発見したように言う。
「ここだけ、何かあったみたいだよ。土が軟らかいから」
 わかばの言葉に3人が振り返って、その地面を見つめる。わかばは徐に手で軟らかい地面を掘ってみた。しばらく掘ってみると、ピンク色のボディに黄色でおんぷマークの装飾の入った折りたたみタイプの携帯電話が出てきた。それは蘇雲の魔法携帯電話ピロリンコール。
「そぉは、この下に…」
 みるとは土まみれになった蘇雲のピロリンコールを見つめて呟く。そこにみるとのピロリンコールが着信する。
「あっ、つくしちゃん。うん…うん」
 電話は同じく魔女見習いの友人、蒼井つくしからだった。つくしもみるとに呼び出されたのだが、何故か一人到着が遅れていた。みるとは今の状況をつくしに伝え、電話切る。
「つくしちゃん、魔法研究所に寄ってからここに来るって…今の話したら、便利な道具があるから持って来るって言ってた…」
 つくしは発明家魔女の弟子で自身もメカに強かった。何やら秘密兵器を持参してくるみたいだ。でも…みるとは。
「…けど、蘇雲が心配だよ。私、つくしちゃんを待ってられない」
「そうね。それにその道具が役に立つかわからないし」
 あずさもそう言い出す。すでに二人は、この地面の下に意識が集中している。
「それでは、わたしはここでつくしさんを待ちますわ」
 さくらがそう言うと、あずさは済まなさそうに頭を下げた後、わかばに尋ねる。
「わかばはどうする?」
「えっ…私は…」

魔法を使う
つくしを待つ